「繰下げのほうが有利ですが、主婦にとって老齢厚生年金の繰下げは、あまり意味がありません。多くの場合、夫がやがて先に死亡し、夫の死後妻に支給されることとなる遺族厚生年金と妻自身の老齢厚生年金は相殺されるからです。専業主婦で大事なのは老齢基礎年金部分。夫の死後に遺族厚生年金と相殺されることはないので、この基礎年金部分は繰下げたほうがいい」

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サラリーマンの年金制度は夫婦単位で設計されているので、夫と妻が自分の年金だけを把握するのではなく、夫婦一体として相談しながら考えるべきだと渋谷さんは言う。

繰下げが有利と書いたのは、例えば70歳まで繰下げた場合、82歳より長生きすれば65歳から受給したよりも累計額が多くなるということ。逆に、75歳までに死亡すれば65歳から受給するよりも60歳から繰上げ受給したほうが累計額は多い。しかし、いつ死ぬのかは誰にもわからない。

「あまり長生きすると貯金はなくなりますが、年金の権利はなくなりません。年金は老後生活のベースになるので、早くもらって額が少なくなるよりは、働けるうちは働き、少し我慢しても繰下げて受給額をある程度多くしたほうが、将来、介護施設に入居するときなどの選択肢も広がります」

▼税金

最後に税金関係の申告について。退職金にかかる所得税や住民税は会社から支払われる段階で源泉徴収されるので、一般的に確定申告の必要はないが、定年後、再就職せず個人事業主として働くなどして一定の所得を得た場合は、自分で確定申告をする必要がある。確定申告をすれば、自動的に市区町村へ申告内容が伝わるので住民税の申告は提出しなくてもよく、また国民健康保険の保険料も申告した所得で決まる。

「源泉徴収のサラリーマンには無縁だった確定申告は煩わしいものですが、納税は国民の義務。確定申告をすることによって、納めすぎていた税金が戻ってくる場合も少なくないので、面倒くさがらずに取り組んでください」

▼してはいけないこと

定年後の手続きでやってはいけないことがあると渋谷さんは警告する。

「再就職するつもりなのに年金を繰上げ受給すると、再就職先の給与次第では年金が大きく減額されてしまいます。また、年金を繰上げ受給しつつ、失業保険も受給しようとすると、年金が支給されなかったり、減額されたり、二重三重の損を招くことになります」

有利なほうを選択するのは大切だが、欲張りすぎると、かえって損することになるから気をつけたい。

渋谷康雄(しぶや・やすお)
社会保険労務士
1957年生まれ。明治大学卒業。2001年、渋谷社会保険労務士事務所設立。著書に『ケース別 サラリーマン夫婦の年金がわかる本』ほか。
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