数店舗程度の店ならともかく、大規模チェーン店では、各店で均一化や均質化が大変になる。アルバイトでも調理準備できるメニューを考えると、ごはんモノはむずかしい。となると、消費者に長年親しまれているパスタメニューが取り組みやすいのだ。

先行する「プロント」がパスタメニューに成功した理由はなぜか。元ドトールコーヒー常務でフードビジネスコンサルタントの永嶋万州彦氏はこう解説する。

「製粉メーカーと連携して冷凍パスタの開発に成功したことが大きい。加えて、冷凍麺を生麺のように戻すスチーマーの開発に、機械メーカーが協力したのです。これによりモチモチ感のあるパスタメニュー開発に弾みがつき、女性客にも支持されていきました」

永嶋氏は重ねて、「スタバやコメダやドトールは、コーヒーと合うパンメニューで成功を収めたから、これまではパスタに参入しなくて済んでいた。ですが、『客単価増』を図るためには、新たなフードメニューの開発に迫られます。その手段としてパスタを導入したのでしょう」とも話す。

客単価を上げるために本格的な展開を目指すなら、メーカーと連携した開発といった本気度も問われるのだ。

パスタに対する消費者の舌は肥えた

歴史の視点も踏まえておきたい。戦後の高度成長期以降、各地の喫茶店が食事メニューを取り入れた際、各店がさまざまなメニューを試した。中にはかつ丼やラーメンがある店もあったが、やがてパンとスパゲティが主流となり、特に後者が定番化した。

その理由は前述したとおりだが、「スパゲティはゆで上げて油を絡めると数日置くことができ、注文を受けてすぐに調理するのに向く商品だった」(創業50年の老舗喫茶店の創業者)と指摘する声もある。来店客の食事ニーズに応える場合、スパゲティメニューは使い勝手がよい。注文数が増えれば客単価も上がり、店の売り上げ拡大につながる。

その意味で、大手各社が今パスタメニューを導入するのは「温故知新」ともいえるが、当時と現在で大きく異なるのが、業態を超えた競合の存在だ。パスタ専門店は都市部を中心に増え、小売店で売られる冷凍パスタも安価でおいしくなった。

「カフェのパスタと小売店のパスタを一緒にするな」と思われるかもしれない。だが消費者を取材すればするほど、送り手が思うほど受け手は「業態を意識していない」のだ。代表例がコンビニコーヒーで、今や100円コーヒーの標準の味となった。

だからこそ、カフェでの食事ニーズを求める消費者に応えつつ、「この味とこの価格ならまた注文したい」と思わせる水準に仕上げなければならない。大手各社はプロントのように本格的な食事メニューの開発に進むのか。それともコーヒーに合うメニューにとどめるのか。各社の取り組みに注目が集まっている。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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