「10%宣言」にちらつく連立与党・公明党の影

消費税について、公明党の立場を簡単におさらいしておきたい。創価学会に支えられ庶民、中低所得者、中小企業対策に力を入れる公明党は、消費増税は本来ならば消極的なはずだが、責任政党として受け入れ、その代わりに、弱者対策の実施を提唱している。10%に税率が上がると同時に導入されることが決まっている軽減税率は、公明党が強く求めたものだし、今後議論される消費低迷防止策も、議論をリードしようとしている。

その結果、軽減税率や弱者対策、消費対策を強調するためにも公明党は予定通り税率を上げるよう訴える「ねじれ」のような状況が生じている。

来年は統一地方選が4月、参院選が夏に行われる。2つの選挙を特に重視する公明党は、消費税上げのアナウンスが、選挙の直前になるのは避けたい。選挙が近づく前に、できるだけ早く宣言し、弱者対策、景気対策、中小企業対策を万全にする。それが公明党にとってベストシナリオ。安倍氏は今回、そのシナリオ通りに動いている。

「消費税と憲法をバーター」の仰天シナリオ

連立与党内で公明党の地位が上がったわけではない。むしろ「消費税10%」の宣言は、公明党が勝ち取ったというより、安倍氏が公明党に「貸しをつくった」と考えたほうがいい。

そうだとしたら、貸しを返してもらうのはいつか。ズバリ、「憲法改正」しかない。

安倍首相が、残る任期3年の間に憲法改正に向けて執念を燃やしている。実現のためには与党・公明党の協力は不可欠だが、公明党の対応は今のところ冷淡だ。自民党は、改憲原案を国会に提出する前に公明党との与党協議を呼び掛けようとしていたが、公明党側は拒否。

「政府が提出する法案は事前の与党折衝が必要だが、3分の2の賛成が必要な憲法問題は、野党の協力が必要。与党協議は行わない」というのが公明党側の説明だが、安倍氏にとっては大誤算。今月24日召集の臨時国会でも改憲論議が進む気配は漂ってこない。

「そこで憲法と消費税のバーター論が浮上したのではないか」というのが、ある自民党関係者の見立てである。安倍氏は改憲をしたい。公明党は消費税増税を確かなものにして対策を十分に講じていることを強調したい。ならば安倍氏は消費税増税とその対策では全面的に譲歩し、その見返りとして改憲問題では公明党に共同歩調をとってもらう。長期政権を築いた安倍政権ならば考えそうな高等戦術である。