クリスマスシーズンに向けた4つの仕掛け

「日本一」を続けるだけあり、クリスマスシーズンには特別な仕掛けもある。

「この時期の取り組みは大きく分けて4つです。(1)事前準備、(2)毎日の目標管理、(3)テイスティングの強化、(4)パートナーの思いの共有化です。例年、クリスマスブレンドが発売される11月上旬に向けて、11月から店内を赤に染める演出もします」(野田さん)

野田さんの話をもとに補足すると、(1)は10月に店舗ミーティングを実施して、苫小牧店の販売目標を定める。(2)は、「9年連続で日本一」という実績や日々の目標数字も、関係者控室にあるホワイトボードに書き出し“見える化”する。(3)は前述した「試飲」をさらに強化する。(4)は、これらによってパートナーを巻き込む――といった取り組みなのだ。

ホワイトボードには、中型のポストイットを貼り、そこに各パートナーが自分の思いも記入する。ソフトなやり方だが、話を聞いて、全国大会をめざす強豪校の部活をイメージした。

昨年販売されたクリスマスブレンド(画像提供=スターバックス)

苫小牧の活動に、全国のスタバが注目

仕掛けにはお客も取り込んでいる。昨年から、店頭の黒板で「苫小牧は日本一を続けています」と告知するようになった。一部の人には伝えていたが、ひろく告知したのは、それが初めてだ。「シーズンになると、お客さまも応援してくださり、日本一にご参加いただく一面もあります」(野田さん)。

スターバックスの本社も、苫小牧の活動に注目し、「ベンチマーキングの事例」として社内で共有している。地道な活動が、ここにきて全国的な注目を集めつつあるのだ。

昨年店頭に設置された、クリスマスブレンド販売数日本一をアピールする黒板(画像提供=スターバックス)

身近な競合は「館内」のコーヒー豆

ただし、これで安泰とはいかない。最後に「消費者目線」で考えてみよう。

スタバのクリスマスブレンドは安くない。今年の価格は未定だが、昨年は豆250グラムで1430円だった。イオンの館内には競合も多く、「カルディコーヒーファーム」も「イオン苫小牧店」もある。カルディのコーヒー豆は200グラム500円程度からあり、イオンの食品売り場には、「UCC」「キーコーヒー」「AGF」といった大手ブランドのコーヒー豆が揃っている。

少し前に比べて、コーヒー豆の品質はかなり上がり、どこで買ってもおいしいコーヒーが飲めるようになった。モール内のカフェでは、こうした「館内の競合」とも戦わなければならない。館外に目を向けると、7月30日には「コメダ珈琲店 苫小牧弥生店」も開業している。競争は激しい。

山田さんは「スタバには、いろんなことにチャレンジできる風土がある」と話す。関係者は「10連覇を果たしたい」と力を込めるが、記録を続けることが目的ではないはずだ。ファンの心をつかみつづけられるか。今後の成果に注視したい。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
【関連記事】
スタバに"意識の高いバイト"が集まるワケ
セブンが勝てない「最強コンビニ」の秘密
コンビニの「サラダチキン」を食べるバカ
富裕層は「スマホ」と「コーヒー」に目もくれない
レジ横でバレる「貯められない人」の本性