いざというとき、自分の身を守ってくれるものは何か。その筆頭は「法律」だ。「プレジデント」(2017年10月16日号)の「法律特集」では、マネーに関する6つのテーマを解説した。第2回は「隠し口座の把握」について――。(全6回)

弁護士会照会制度で、預金口座情報の開示をする動きが

借金の取り立てや離婚の財産分与など民事事件においては、裁判や調停によって、一方に支払い義務が生じることが少なくない。ただし、債務者が財産を隠そうとすると、債権者が「隠し口座」を把握するのはむずかしい。それだけに、隠し得になってしまうケースも多くある。

金融機関に預金口座を設けるのは個人の自由で、何ら違法ではない。おそらく、多くの人が複数の銀行や信用金庫を利用していると思う。最近ならネットバンキングや海外の金融機関など複数の口座を持つこともめずらしくない。債権者が裁判で勝っても、相手方が支払いを命じられた金額が不満で財産を隠す場所はいくらでもあるのだ。

その場合は強制執行をすることになるが、銀行名だけでなく、支店名まで特定して申し立てなければならない。つまり、裁判所はいちいち債務者の銀行口座の所在を把握する手伝いをしてはくれない。とはいえ、債務者の預金口座となれば口座番号はもとより支店名さえわからないことが普通だ。隠された口座の所在が掴めずに、損害賠償金が得られず、泣き寝入りする例もままあった。

ところがここにきて、金融機関によっては、民事裁判の支払い義務を果たさない債務者の預金口座情報を開示する動きが出はじめている。これまでも口座情報の開示を求める手段として「弁護士会照会制度」により照会することができた。しかし、金融機関は預金者の秘密保護などを理由に、口座名義人の同意を要求する。これがない場合には回答しないという姿勢だった。しかし、確定判決や和解調書など債務の存在を確認できる文書を示せば「弁護士会照会制度」による債権者からの請求に対応するように変わってきた。

財産隠しといえば、離婚するときの「財産分与」でも問題になる場合がある。個人の財産については、夫婦といえども相手の全額は把握しにくい。だから、夫婦のいずれか、あるいはいずれもが万一の離婚に備えて「全財産を知られたくないから隠しておこう」と考え、内緒で口座をつくってしまうわけである。

そうした場合、調停を担当する弁護士に、配偶者の片方から「どうやら独身時代からの銀行定期預金があるらしい」といった相談が寄せられる。だが、相手方がどこの金融機関に口座を保有しているかまったくわからない状態では、調べることはかなり困難だといっていい。

とはいえ、調停や審理は進められ、和解や裁判を通しての解決が図られる。その結果、財産の分割や慰謝料、養育費などの支払いなどが決まっていくことになる。しかし、それが履行されなかったなら、和解調書や確定判決など債務の存在を確認できる文書を示し、弁護士を通じて銀行等に照会すればいいのだ。

ただ、前述したように現時点では照会に応じていない金融機関のほうが多いとみられる。そのため法務省は、裁判所が開示請求できるよう法改正をしていく方針だとも伝えられている。そうなれば、債務者口座の開示は一気に進むことだろう。

長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)
弁護士・税理士
東京永田町法律事務所代表。早稲田大学卒業後、朝日新聞記者を経て司法試験に合格。大手渉外法律事務所や外資法律事務所を経て独立。著書は『磯野家の相続』『モメない相続』など多数。
(構成=岡村繁雄)
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