3月の声を聞いたとたんに「安倍一強」が大きく、きしんでいる。「森友学園」問題で財務省の決裁文書が改ざんされていたことが明らかになった。引退した元自民党大物議員や地方政界から安倍政権に対する厳しい声が上がっているのだが、肝心の現職の自民党国会議員からは、異論はほとんどなし。ひたすら「財務省の単独犯」という構図をつくりあげて問題を矮小化しようとしている――。
2018年3月7日、日本外国特派員協会で記者会見する小泉純一郎元首相(写真=時事通信フォト)

YKにかみつかれ、地方からも怒りの狼煙

「安倍さんも麻生さんも(佐川宣寿氏の国税庁長官起用を)適材適所と言い切った。これにはあきれたね」

小泉純一郎元首相は3月13日、BSフジ番組に出演し、安倍晋三首相、麻生太郎副総理兼財務相の政権ツートップを激烈に批判した。政界を引退後、脱原発に意欲を燃やす小泉氏は、脱原発を決断しない安倍氏に対し政策論で注文をつけることはあったが、個人を批判することはなかった。もともと安倍氏は小泉氏に後継指名されて2006年、首相についた。今回は親から「ダメだし」されたことになる。

小泉氏に平仄(ひょうそく)を合わせるように山崎拓元自民党副総裁も14日の党石破派会合で、文書改ざん問題について「(安倍氏の妻)昭恵氏の関与が明らかになれば、責任を取らざるを得ない」と、安倍氏の責任論に及ぶ可能性に触れた。小泉氏と山崎氏は、故・加藤紘一元自民党幹事長と3人で「YKK」と呼ばれ、1990年代から2000年代にかけて政局で存在感を発揮してきた。老いたりとはいえ、小泉、山崎両氏の発言は永田町でも注目を集めた。

地方からも声が上がる。13日には自民党会派の姫路市議が、森友問題での安倍政権の対応を批判して会派離脱。地方からの不満は全国で爆発寸前。25日に行われる自民党大会を前に党執行部は危機感を募らせている。

猛然と批判するのは「いつもの人」

ところが、ここまで問題が広がっても、永田町にいる自民党の現役国会議員たちの動きはおそろしいほど鈍く、危機感は乏しい。今のところ明白に安倍批判を繰り返しているのは「南スーダンの日報問題は、加計問題、今回の森友問題と、安倍氏の周りの友達を優遇することが原因でいろいろな問題が起きている」などと語る村上誠一郎氏ぐらいか。ただし村上氏は今回に限らず、ここ数年、いつも安倍政権を批判している「万年非主流派」。彼が声を上げても「いつものこと」にすぎない。

国会の予算委員会では、自民党議員は安倍氏や麻生太郎副総理兼財務相に、決裁文書の改ざんに関与したかを尋ね、否定すると、それを受け入れ、あとは財務省の太田充理財局長を徹底的に追求するというパターンが続く。要は、改ざんには政治が関与しておらず「財務省の単独犯」だったという流れをつくろうとしている。

3月16日、自民党はこの問題の真相を究明するという触れ込みのプロジェクトチームをつくったが、トップは総裁特別補佐の柴山昌彦氏。設置は党幹事長室主導で決まったもの。政権に不利な調査結果が出るとは思いがたい。