慶應義塾大学がチームでの「箱根駅伝」への出場を目指している。昨春にプロジェクトを立ち上げ、今年の箱根では12年ぶりに学生連合チームへ選手を出した。他大学はPRを目的として選手をスカウトしているが、慶應ではスポーツ推薦は受け入れていない。なぜ箱根にこだわるのか。その背景を追った――。

スタートではなく、ラインに立った

箱根駅伝8区終盤の難所、藤沢の遊行寺坂を、白地に「K」のユニフォームがじりじりと登ってくる。関東学生連合チームの8区を任された根岸祐太(慶應義塾大学3年)は、第82回大会以来12年ぶりとなる慶大生の箱根ランナーとなった。間断なく飛ぶ声援。21.4kmの間に立った競走部の幟(のぼり)は400本。それだけでなく、慶應三田会の幟も視界に入った。付属の慶應義塾志木高から6年間「K」のユニフォームを着る根岸は「今までで一番慶應を感じた」という。

関東学生連合チームの8区を任された慶應義塾大学3年の根岸祐太選手。

慶大は2017年春に「箱根駅伝プロジェクト」を発表。日体大、実業団チームの日清食品グループで活躍した保科光作氏をコーチとして招聘し、大学の協力で「ランニングデザイン・ラボ」を設立。研究領域とも連携した、慶大ならではの強化施策の準備を進め、1994年の第70回大会以来となるチームでの箱根駅伝出場を目指している。競走部創立100周年の節目に際して立ち上がったプロジェクトだが、きっかけを作ったのは長距離ではなく短距離のOBだった。

今大会から遡ること約2週間前、慶大日吉グラウンドの一室では、根岸の応援に向けた慶大競走部OBによる会議が行われた。ホワイトボードに8区の道程が描かれ、応援スポットと動員状況が書き込まれている。発起人の1人である短距離のOBはこの日も会議の進行役を務めていた。

「発案当初は周囲の多くの人に『箱根なんて無理』と言われましたが、保科さんと出会った時に『無理じゃない』と言われ、励みになりました。根岸にも本当に感謝していて、本番は楽しんで走ってほしい」

高校時代は不本意な成績しか残せず、リベンジを誓って慶大競走部に入った根岸は、多くのサポーターに支えられ箱根路を踏んだ。「まずは学生連合に選手を送り込む」という初年度の目標を達成し、プロジェクトは良好なスタートを切ったといえる。

慶大がチームとして出場した94年当時、長距離部員でもあったランニングデザイン・ラボの代表を務める蟹江憲史氏(慶大大学院政策・メディア研究科教授)は言う。

「初年度でできる最大のことをやったと思います。その意味では、ようやくスタートラインに立てたんじゃないかな、と」