加害者である横綱・日馬富士の廃業など大問題に発展した「貴ノ岩暴行事件」。相撲界では以前から行き過ぎた体罰や暴行問題がたびたび発覚しては体質改善が叫ばれてきたが、いまも体質は変わっていないことが明らかになった。根本的な解決のためには、暴力を容認する雰囲気を変えなければならないと橋下徹氏は指摘する。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(12月26日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

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僕自身も子供の剣道の指導では体罰を当たり前だと思っていた

うちの長男(現在19歳)は小学校2年から剣道を習い始めた。地元の剣道道場に入れたんだ。指導者は地元の熱血漢。自営業の仕事があるのに、子供たちを預かって週4日や5日の剣道指導をやってくれていた。道場運営は指導者と保護者で行う。僕や妻は道場運営に十分協力できずに申し訳なかった。指導者等には報酬は一切出てない。まさに地域住民によるボランティア活動団体。その道場で習った子供が社会人になって今度は指導者になるという、今時珍しい循環ができていて、さらに試合には強く、大阪いや日本全国でもかなり有名な道場だった。指導者は自分の生活の大半をこの子供たちへの指導に充てて、保護者も付きっきり。うちの子供はこの道場で育ててもらったようなもので、感謝してもし尽せない。

10年前に僕が政治家になったとき、この指導者が僕の長男に「お前のお父さんはこれから大阪のために働くことになるからお前と接する時間がなくなるだろう。だから俺が父親代わりになってやる」と言ってくれた。涙が出たね。

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当時も、そして今も、この指導者たちの指導には感謝している。ただね、暴力的指導も確かにあったんだ。

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写真=iStock.com/Anna_Zajac

正すべきところは正していくと常に心掛けていた僕も、剣道の暴力的指導について、「まあこんなもの」という認識だったので声を上げなかった。白鵬さんに、あの暴行現場で「日馬富士の暴行を止めるべき」というのはちょっと酷過ぎるというのが僕の実感だ。日馬富士の暴行を止めるべき! と口で言うのは簡単。でも本当に白鵬さんにそれを求めることができる状況だったのかどうかをしっかりと検証しないと、白鵬さん個人に責任を負わせるだけで本件暴行事件は幕引きとなってしまい、相撲界の抜本的改革にはつながらない。

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最近のテレビ番組での元力士の話を聞くと、相撲界の雰囲気は昔ながらだなーと感じた。そして日本相撲協会役員、評議員、横綱審議委員、そして相撲ファンまでもがそのような雰囲気を許してしまっている。元力士たちが相撲界を語るところを聞いていると、「もうそれは時代遅れで、今は通用しない」という認識は全くない。完全にずれてしまっている。ところが世間も相撲界のそのような雰囲気に対しては強烈な異議を唱えない。

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このような雰囲気こそが相撲界の暴力問題が根本的に解決されない原因だ。テレビなどで発言している元力士たちだけでなく、現役の力士や相撲協会の役員などの関係者が、「これまでの相撲界のしきたり、風土・雰囲気はおかしい!」とどんどん言い始めるくらいに相撲界に今漂っている雰囲気を変えていかないと、相撲界の暴力問題は抜本的に解決されないね。