被告人の「自分を曲げない生き方」が人の心を動かした

被告人は心の優しい“いい人”なのだ。だからこそ悩み、うまく立ち回れず、矛盾だらけの世の中で生き方を見失ってしまった。たどりついた選択が、小さな窃盗事件とはいえ、自らも犯罪者となることだったのは皮肉なことだ。“いい人”でありながら“したたか”ならいいのだが、それは両立しにくい。

でも、被告人の「自分を曲げない生き方」は人の心を動かす。

論告時、検察は「路上生活のあげく犯行に及んでおり、おにぎり35個という数は、飢えをしのぐためだけとは考えにくい」などと型通りの責め文句を連ねたが、口調はおざなりで、1年6カ月の求刑を告げる際も、ルールだから仕方がないんだという雰囲気を隠そうとしなかった。

弁護人も同じだった。「ぜひ執行猶予付き判決をお願いします」と言う表情には、もし執行猶予がつかなかったらただじゃおかない、という気迫がみなぎっていた。それを受け、裁判長は、執行猶予付き判決を前提に、今後の身の振り方を案じるのだった。

▼「あなたは人生を立て直せるはずです。わかりましたね」

判決は求刑通りの懲役1年6カ月、執行猶予3年。

「福祉関係の仕事をして困っている人の役に立つ、高い志をあなたは持っている。今後、どうするつもりでいますか」
「横浜に知人がいますのでそこへ行き、生活保護の申請をして……。先々は暴力団関係に関わりを持たずに、手話通訳の仕事ができるよう、職場を見つけたいと思います」

最後になってようやく、前向きな言葉が出たと思ったら、裁判長が身を乗り出し、声をかける。

「あなたは絶対に、いいですか、絶対に、2度と罪を犯してはなりませんよ。あなたはたくさん学び、社会のために働いてきました。いったん挫折し、法を犯してしまったけれど、まだ十分、人生を立て直せるはずです。わかりましたね」

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