コンビニで35個のおにぎりを万引した疑いで逮捕された43歳の無職男性。裁判で、男性は3つの大学を卒業した元公務員で、手話通訳のプロであることがわかった。なぜ路上生活を強いられていたのか。検察官や裁判長にも励まされたという事情とは――。
コンビニのおにぎり35個を万引した男の人生とは?
刑事裁判で、小さな事件の宝庫といえば「窃盗」である。
窃盗の罪で捕まって裁判を受け、執行猶予付き判決を受けた男が、拘置所を出たその足でコンビニに向かい、缶コーヒー1本を万引して御用となった事件なんか、税金使って裁判するのがもったいないトホホさだ。
僕は傍聴中ずっと、いい年をしたオヤジが、執行猶予が取り消されるリスクがあっても手を出さずにはいられなかった、缶コーヒーの魅力について考えざるをえなかった。
ゲームソフトを盗んで換金しようと思い立ち、埼玉県から東京・秋葉原まで延々歩いたが、専門店で現行犯逮捕された臨時雇用の建設作業員もいた。なぜ秋葉原まで徒歩で向かったのかというと、所持金が2円しかなかったからだ。歩き通す体力を仕事に向ければ、と思わずにはいられない。
▼「仕事も金もないので、やむなく万引をしました」
こうした小さな事件の中でも強く印象に残っているのが、数年前に東京地検で傍聴した“おにぎり35個万引事件”である。早朝のコンビニで、店にあるおにぎりをありったけカゴに入れ、そのまま店を出ていこうとして捕まった被告人は43歳無職の男。逮捕時の所持金は147円だった。
「仕事も金もないので、やむなく万引をしました。悪いことをしている自覚がありましたが、腹が減って仕方がありませんでした。4日間、何も食べずにいて、もう限界だったんです」
だからといって35個(約5000円相当)は明らかにやりすぎだ。
「あまりにも大胆すぎないですか?」
裁判長は、現行犯逮捕されて刑務所に入りたくてわざと目立とうとしたのではないかと疑っているようだが、路上生活中で、盗めるだけ盗んでおこうという気持ちが働いたと被告人は言い張った。
「盗んで、同じように路上生活をしている人に売る考えはなかったんですか?」
「それはないです。やろうとしても取られるだけですから」