ネスレ日本は職場などに向けてコーヒーマシンを無料で提供している。それは専用カートリッジで自社のコーヒー粉を買ってもらうためだ。コーヒーマシンの製造企業の多くが、コーヒー豆や粉という「アフター・マーケット」を収益源にできていない。その違いはどこにあるのか。気鋭の経営学者が、ネスレのビジネス戦略に迫る。

注目度の高い企業事例からいかに学ぶか

ネスレ日本のコーヒーマシン「バリスタ」。「ネスカフェ・ゴールドブレンド」などのコーヒー・カートリッジをセットして使うマシンである。ビジネスモデルの特徴は「ネスカフェ・アンバサダー」というプログラムによって、職場などの世話役となる人にマシンを無償提供することだ。1台で5種類のカフェメニューが楽しめるという高機能な機械を、なんと無料で配ってしまうのだ。その狙いはもちろん、コーヒー・カートリッジなどの定期購入である。

ネスレは職場向けにコーヒーマシンの無料配布を行っている。ネスレ「ネスカフェ アンバサダー」のサイトより。

今回は、こうした注目度の高いマーケティング事例からいかに学ぶかを考えていく。ネスレ日本の取り組みを、表面的にコピーしようとしても、うまくいかないのがビジネスである。そこには複数のマーケティングの打ち手が巧みに組み合わされていることがある。

企業が、アフター・マーケットをめぐるネスレ日本の戦略性を自社に取り込むには、さらに複数の他社(あるいは他産業)事例との比較を重ねながら、ネスレ日本の事例に潜むハイブリッド的な要因の組み立てを読み解いていく必要がある。

以下では、そのための簡便で有効な思考を、川喜田二郎氏の「KJ法」を踏まえて私が考案した「KK法」(ネーミングもKJ法にならっている)に沿って紹介していく。

学ぶ事例の幅を広げる

アフター・マーケットとは、製品の購入後に必要となる「補完財」の市場のことである。

たとえば自動車は、アフター・マーケットが大きい産業である。自動車の購入後には、ガソリンやオイル、損害保険や定期点検といった、さまざまな補完財が必要となる。アフター・マーケットを構成するのは、このような消耗品、アクセサリ、ソフトウェア、さらにはメンテナンスやリペアなどのサービス、等々である。今の日本のように基本的な産業や生活のベースが行き渡った成熟した社会において、企業が収益性を高めるには、アフター・マーケットへのアプローチが重要となる。