「子供の話をしっかり聞く」たったそれだけができない親

学力の源泉となる、たった1つの親の習慣。それは「子供の話をしっかり聞くこと」だ。

東大生に小学生時代を振り返ってもらったアンケートでは、「家の人にしっかり話を聞いてもらっていましたか?」という項目がある。これに対して、実に東大生の90%がYESと答えた。自由記述で答えてもらった、「親子の会話のエピソード」にはこんな実例が記されていた。

●「母親と好きなパン屋さんの話をずっとしていた」(文科3類 女性)
●「いつも何気なくした聞いた質問を受け流さず答えてくれた」(理科2類 男性)
●「くだらない僕の空想の話を邪険に扱わず何度でも聞いてくれた」(理科1類 男性)
●「学校で何かあると、母親がいつも話を聞いてくれた。その話をよく覚えていてくれて、学校から帰ると『○○ちゃん、どうだった?』と気にかけてくれた」(教育学部 女性)
●「塾や学校で教わった新しい知識を披露すると、快く聞いてくれた」(理科1類 男性)
●「共通の趣味だったゲームの話をよくしたのを覚えています」(理学部 男性)
●「読書や料理、手芸が大好きだったのですが、私が黙々と作業している間は話しかけず、私が面白かった点やこだわった点について話すときは『すごいすごい』と聞いてくれました」(理科2類 女性)

川島隆太教授は、説明する。

「私の研究室が仙台市とともに行っている『学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト』では、仙台市に住む合計7万人の小中高生を2010年から7年にわたって追跡調査しています。この解析から明らかになったのは『家の人にしっかり話を聞いてもらった』と答えた子は、学力が上がるという真実。膨大なデータが強い因果関係を示しています。東大生の親も、子供の話をしっかり聞いてあげていた。これが学力を上げる秘密なんです」

▼親に話を聞いてもらえた子供は「心が安定して“大化け”する」

なぜ、話を聞いてもらうと、子供の学力が上がるのか? そこには、心の安定が大きく影響を与えているという。川島教授は続ける。

「『話をしっかり聞いてもらえている』と子供が答えたということは、家族のコミュニケーションがきちんと取れているということです。私は別の研究でコミュニケーションが親子関係にどんな変化をもたらすのかも調べました。すると、当然のことですが、親子の愛着関係が高まり、子供の精神状態が安定しました。こうした親子関係にある子供は、家で安心して暮らしているから、落ち着いて勉強に取り組めるのです」

*川島教授によれば「話を聞く」といった家族のコミュニケーションが多いと、子供の自主的な学習習慣などが形成され、それによって高い学力を備えられるという因果関係がわかった。

親子の会話のエピソードを読むと、東大生の親は子供の話をしっかりと受け止めているの
がわかる。子供の言うことと聞き流したりせず、おもしろがっているのが伝わってくる。これは多くの親が意外と実践できていないことかもしれない。

まず、「家族のコミュニケーション」が心の安定をもたらす。これがスタートだ。

仙台市のデータでは、「話をしっかり聞いてもらった」子供は、「学習意欲」が力強く育っていくことがわかっている。学習意欲は、やがて「自主的な学習習慣」につながり、「高い学力」として結実する。

私たち編集部の東大生アンケートでも、「勉強をして、新しいことを知るのが嬉しかった」が84%、「知りたいことがあると、じっとしていられないタイプだった」が73%など、学習意欲に関する項目は軒並み高い割合を示した。だから、東大生は子供の頃に親から言われなくても自ら勉強していたのだ。

今回の東大生アンケートでは、子供の頃、親が勉強を見たかどうかも聞いている。結果は、東大生の親の6割が勉強を見ていなかった。

「親のやるべきことは明らかです。子供の話をしっかり聞いて、安心させてやること。それがもっとも大切な親の仕事なのです」(川島教授)

勉強に関わるのではなく、日常のたわいない話・雑談に付き合う。たったそれだけのことが子供の心と頭を育てていたのだ。