26歳、初めてプロデュースした映画『電車男』が大ヒット。昨年公開の『君の名は。』は社会現象に。手掛けた作品にハズレなし。すべて、狙い通りなのか──。稀代のプロデューサーの源泉を探った。
映画プロデューサー、小説家 川村元気氏

時代の気分を創るのは「大衆」より「自分」

ヒットは、狙ってつくれるものではないと思っています。

時代の求めるものは日々移り変わりますから、マーケティングデータなどに基づいて作品をつくると、タイムラグが生じてかえってうまくいかなくなる。特に映画は企画段階から公開されるまで2年はかかります。作品が公開される頃にはいまのデータや手法が古びてしまい、通用しなくなってしまうのです。

ロジックやデータより、あくまで感覚が先。とてつもなく美味しい料理をつくるシェフや寿司職人は、まずは感覚からはじめている気がします。狙って美味しいものをつくろうとしても、人が驚くような味になるとは思えません。

ですから僕が心掛けているのは、「自分が観たい映画」をつくるということ。いち映画ファンとして、「映画館で1800円を払って何を切実に観たいか」。そのことを常に考えています。

マスに向けてつくるといっても、大衆が何を考えているかは正直わかりません。ただ、大衆の一人である自分が何を求めているかは、深く考えるようにしています。自分が食べたいと思える味になるように努力して、その味が「実はこれが食べたかった」という大衆の気分に重なれば、それがヒットの生まれる瞬間なのだと思います。

感覚で高く飛べたとしても、どうやって飛べたのかをわかっていなければ、再現することはできません。ですから、こうしたインタビューに答えるためでもありますが、因数分解してヒットの要因を言葉に落とし込んでいく作業はするようにしています。

ヒットの要素を言語化できれば、それを発展させることもできるし、逆に同じ手法を避けることも容易になります。同じことを続けると観客に飽きられますし、自分自身も熱を持ってやれなくなる。いずれにしても、観客は同じ手法に喜んでくれるほど甘くはないと思っているので、過去の成功体験をなるべく忘れて「いま、食べたい」味にするために、新しい挑戦をするようにしています。

大衆の一人としての感覚からはじめて、後からそれをロジックにしていくのが、僕の表現方法です。いまのところは、世の中の人が「こういうものを観たい」という気分を数年先に感じ取ることはできているのかもしれません。

もともと、自分が何に不満で、何を欲しているのかということには、ものすごく気を配っています。その個人の感覚の集積が「時代の気分」になると思っているからです。