今年2月に発売以来、瞬く間にベストセラーになり、増刷に増刷を重ねてついに43万部を突破。ケント・ギルバートの『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)が、いまだに売れ続けている。しかし、中身は疑問符がつくことばかりだ。保守派の論客である古谷経衡氏が、その“罪”を問う。

「ネット右翼本」が異例の大ヒット

ケント・ギルバートの『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)という本が、43万部も売れているらしい――そう最初に聞いた時は、4万3000部の聞き間違いだと思った。

タイトルからして「ネット右翼」が好む嫌韓・嫌中本の一種。この手の本の瞬間最大風速(MAX部数)は、せいぜい5万~8万部ということを経験則で知っているからだ。しかし何度聞いても43万部だというし、書店には「40万部突破!」のポップが掲出されている。

一冊当たりの売り上げが漸減している苦境の出版業界にあって、43万部は間違いなく大ヒットの部類だ。一体どんな本なのか、がぜん気になって買い求めた。

ケント・ギルバート『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)

結論から言うと、遅読の悪癖がある私でも27分で読み終わってしまうとんでもなく薄い内容であった。ストップウオッチではかったのだから正確な数字だ。びっくりするほど、ゼロ年代中盤に隆盛したネット右翼の中国・韓国観をただトレースしたモノで、目新しいものは何もない。

引用「文献」といえば、倉山満、石平、櫻井よしこ、山際澄夫、ペマ・ギャルポ、青山繁晴……。どこかで見聞きしたことのある保守「論客」の名前が並ぶ。ただし引用箇所の明示は不明瞭であり、「石平さんから聞いた話によると~」など、伝聞の形を取っていることが多い。引用にしてはあまりにも誠実さを欠く。

強いて言えば「儒教」という単語と嫌韓・嫌中を絡めた点がオリジナルといえる要素だろうか。しかし、この水準で43万部なら正直言ってうらやましい。

冒頭からトンデモ論が展開

本書を読みはじめた人は、すぐにあきれて放り出すかもしれない。冒頭から非科学的な優生思想にもとづくトンデモ論を展開させているからだ。

「最近の研究では、DNAを解析してみたところ、日本人、中国人、韓国人のDNAには、大きな違いがあることが判明したそうです」「(中華思想という)妄想が、骨の髄まで、そうDNAのレベルまで沁み付いているのです」などという。

しかもこうした人種差別的な理屈も「身内」だけは例外にしている。「韓国・済州島出身で日本に帰化された現在はすっかり大和撫子である拓殖大学の呉善花教授」と「身内」にだけは例外規定を作り、「これは何も人種差別的な言動ではありません」とエクスキューズを差し込んでいるのだ。