中国のモバイル決済は「QRコード+スマホアプリ」が主流

一方、中国で利用されているモバイル決済は「Alipay(支付宝、アリペイ)」「WeChat Pay(微信支付、ウィーチャットペイ)」が二大勢力となっている。日銀のレポートで98.3%となっているのは都市部の消費者を対象にした調査結果なので、中国全土ではもっと少ない数字になるはずだが、日本よりモバイル決済の利用者が多いことは間違いない。

もともと中国ではオンラインショッピングやチャットサービスの利用が盛んで、アリペイやウィーチャットペイの利用に必要なアカウントを多くの人が持っていたこと、さらにここ3~4年でスマートフォンが爆発的に普及したこともあって利用が一気に進んだ。設定も日本のおサイフケータイに比べて簡単で、通常のスマートフォン用アプリをインストールするのとあまり変わらない。

店舗側の負担も軽い。おサイフケータイやアップルペイで決済できるようにするには専用の端末を置かなくてはならないが、アリペイやウィーチャットペイを店舗で使いたい場合はQRコードの印刷された紙を置いておくだけでいい(写真)。

店頭にあるQRコードを、アプリをインストールしたスマートフォンで読み取るだけでお金が支払える。青がアリペイ、緑がウィーチャットペイ。日本の電子マネーの感覚で見ると、驚くほど簡易的だが、設備投資がほぼノーコストなのは大きな強み(撮影:鈴木淳也氏)

中国のモバイル決済の特徴について、モバイル決済ジャーナリストの鈴木淳也さんはこう話す。「中国でブームとなっているQRコード決済の特徴は、個人間送金における相手のアカウントのQRコードを読み取って指定の金額を送金するという仕組みをそのまま店舗決済へと適用した点にあります。つまり同じ送金サービスのアカウントさえあれば誰でもどんな店舗でも投資や特別な審査なしに利用できる利便性があります。これが従来の加盟店方式の電子マネーやクレジットカード決済と大きく異なります。またアリペイとウィーチャットペイの送金手数料は、個人や小規模な店舗であればほぼ無料に近く、利用のハードルが非常に低いことも挙げられます。両サービスを提供するアリババ(Ant Financial)とテンセント(Tencent)はインターネット企業であり、手数料収入よりもユーザーの行動データやマーケティングデータ収集に主眼を置いています。これが銀聯などの既存の金融サービスを展開する事業者とのビジネスモデルとの違いとなり、今回のような普及度の差になって現れているのだと考えます」

また、中国のモバイル決済には、個人間送金が行える機能があり、この特徴も普及に一役買っている。「QRコード決済は、相手もアカウントを持っていれば送金や決済が行えるため、大勢が使えば使うほど便利になるという傾向があり、それが特に都市部での『コンビニから露天まで、どこでも使える』という事情につながっています。現金を扱わないので釣り銭の支払いもなく処理がスムーズですから、特に行列になりやすい商店ほど利用が進んでいるのではないでしょうか。実際、深センのスターバックスでは地域交通の電子マネーの代わりにQRコード決済の取り扱いを開始した店舗もあるようです」(鈴木氏)

モバイル決済ならではのサービスとして、中国都市部では近年、簡単に借りられて乗り捨て自由なレンタサイクルサービスが一般化している。利用料金はモバイル決済で支払える。深センの「モバイク(mobike)」などが代表例だ。日本でも都市型のレンタサイクルはあるが、利便性は中国のものに劣る。