住む場所を間違えると、ストレスで短命化する可能性

劣等感(相対的剝奪感)が慢性的ストレスを作り出し、健康を害し、結果的に短命化をもたらす。では、この劣等感は何が原因で生じるのか。

以下に紹介する調査は直接的な健康問題から少し話がそれますが、人が劣等感や優越感を抱くメカニズムを知ることができます。

バーモント大学経済学部アソシエイトプロフェッサーのサラ・ソルニックと、ハーバード大学公衆衛生大学院教授のデビッド・ヘメンウェイは、ハーバード大学の学生と職員に、下記のような質問をしました(参考:高収入でも「他人の幸福は飯がまずい」人は富裕層になれない http://president.jp/articles/-/20185)。

Q:下記の2つの世界が存在するとしてどちらの世界を選ぶか?
(1)自分は収入が5万ドルで他のすべての人は収入が2万5000ドルの世界
(2)自分は収入が10万ドルで他のすべての人は収入が20万ドルの世界

結果は、56%の学生が(1)を選びました。仮に、人が単にお金持ちになりたいのなら、(1)と(2)から選ぶ場合、絶対額の多い(2)を選んでもいいように思います。ところが、(1)を選ぶというのは、人がたとえ絶対的収入が減っても相対的収入(周囲と比べての収入)を重視しているということを示しています。つまり、「人はお金持ちになりたいのではなく、他人よりお金持ちでいたいだけだ」という傾向が見てとれたのです。

▼タワマンや一等地に住む住居費は「死に金」になるのか
写真はイメージです

人は本能的に優越感を感じたい。そして、劣等感を感じたくない。

他人より収入が少ないことは、劣等感のひとつと言えるかもしれません。そこで、人によっては劣等感を抱きにくくなるようにお金の使い方を工夫をします。たとえば、住む場所です。自分より高い収入の人々が住むエリアではなく、自分より低い収入層が多くいるエリアに住む。自分が周囲より低いと、それがストレスの原因になる場合がある。だから、そんな環境を避けて、相対的に優位な環境(劣等感を抱かない家賃の低いエリア)を選ぶことによってストレスを軽減して自己防衛している人もいるかもしれません。

そうした選択が、物理的な命の長さにつながっている可能性もあります。逆に言えば、一等地に住む「顕示的消費」をして高い住居費を支払っているにもかかわらず、次第に周囲の高収入層に劣等感を抱き、それが慢性的なストレスになる。悪くすると、それが物理的な命の時間に関わってくるリスクさえある。これでは、せっかくお金を使っても、「ムダ金」「死に金」となってしまいます。

以前、ボストン大学社会学教授のジュリエット.B.ショア教授が、アメリカの大企業で正規雇用者として働く人々(中流階級および中流階級上層)を対象にした調査についてお話しました(参考:「みっともなく生きる」これが富裕層への近道だ http://president.jp/articles/-/16400)。

その調査では、2つの興味深い傾向が判明しました。

(1)自分より貧しい人に囲まれて生活すれば、どんどん豊かになる(お金が貯まる)。
(2)逆に、自分があこがれていたり、こうなりたいと思っていたりする上位集団に囲まれて生活し、そうした集団に無理してついていこうとすると、貯金はどんどん減る。

これによって、貧しい人に囲まれて暮らすことにより、豊かになるということだけではなく、ストレスによる寿命の短縮からも解放されるという側面があることもわかります。

自分に上昇志向があるがゆえ、高収入層の住む都心部のタワーマンションやブランド的な立地に住もうとすることが、実は短命につながるとすれば……。住む場所(住居に関するお金の使い方)については経済問題以上に命の問題として、より慎重になるべきなのかもしれません。

次回は先述の「相対的剝奪感」についてさらに掘り下げていきます。

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