「教育年数が短い人」「所得が少ない人」は死亡リスク1.5~2倍

こうした結果から「人の命はお金で買えない」という“定説”は必ずしも正しいとは言えなさそうです。ただし、「何にお金を使えば寿命が延びるか」については慎重に考えていく必要がありますが。

また、この収入の差による平均余命の格差は、時系列で追ってみると年を追うごとに拡大傾向にあります。2001年から2014年で見ると、男性の場合、収入階層上位25%の年間の平均余命の延びが0.20年であったのに対して、下位25%のそれは0.08年。女性の場合、収入階層上位25%の年間の平均余命の延びが0.23年であったのに対して、下位25%のそれは0.10年と収入階層の高い人のほうが男女ともに平均余命の伸びが大きく、収入による寿命の格差は拡大傾向にあると言えます(参考:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4866586/figure/F3/

Chettyらが、収入階層下位25%が“短命”であることについて、相関関係があると判断できたのは「喫煙、肥満などの保健行動(健康を維持・向上するためにとる行動)など」で、相関しないと結論づけたのは、「医療へのアクセス、環境汚染、収入の格差(ジニ係数)、社会的つながり、労働市場の状況など」でした。

日本での実証データについても見てみましょう。

2009年〜2013年度の文部科学省科学研究費による新学術領域研究をまとめたレポート(日本の「健康社会格差」の実態を知ろう)の概要は次のようなものです。

http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/sdh/pdf/messagetopeople.pdf
・教育年数が短い人は教育年数が長い人より死亡リスクが1.5倍高い
・所得が少ない人は所得が多い人より死亡リスクが2倍近く高い

▼劣等感(相対的剝奪感)が健康をむしばむ可能性

学歴、職業、所得など社会経済的地位が高い人は長生きして、そうでない人は不健康で短命な人が多くなる傾向を「健康格差」と呼び、この原因について研究が始まっています。

レポートでは、なぜ学歴や所得と健康状態が関係するかについて、いくつかの仮説をあげていますが、その中に「相対的剝奪仮説」というものがでてきます。他人と比べて自分は豊かでないという劣等感(相対的剝奪感)は、現実に健康をむしばむ可能性があるという仮説です。

たとえば慢性的なストレスは、ホルモン分泌や自律神経のバランスを崩し、脳の構造や機能を変えます。また同時に、健康に悪い生活習慣をあらためることが難しくなり、酒やたばこなどの嗜好品への依存を続けてしまうリスクがあります。その慢性的なストレスの原因のひとつが劣等感(相対的剝奪感)なのではないかということです。