加計学園問題は国会で野党の追及が続き、安倍晋三首相は真相解明に消極的な答弁を繰り返している。そこで加計学園問題についての新聞記事を読み比べてみると、読売新聞の「弱気」と朝日新聞の「勢い」がよくわかる――。

毎日コラムも「ヘンな記事」と指摘

各紙の社説に触れる前に、毎日新聞6月5日付夕刊の客員編集委員、牧太郎氏のコラム「大きな声では言えないが……」を取り上げる。

コラムは「5月22日、読売新聞朝刊に奇妙なスキャンダル記事? が掲載された」で始まり、「前川喜平・前文部科学省次官が歌舞伎町の出会い系バーに頻繁に出入りしていたことが関係者への取材でわかった」と続く。

記者会見を開いて「記録文書は本物だ」「行政がゆがめられた」と証言したあの前川前事務次官のスキャンダルだ。復習しておくと、記録文書とは、安倍首相の知人が理事長を務める加計学園の国家戦略特区への獣医学部新設計画に関し、文科省が特区担当の内閣府から「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」といわれたと書かれている文書のことである。

牧氏は「具体的な『犯罪行為』には触れていない。ヘンな記事だ! と思った」と指摘し、「《売買春の可能性がある風俗産業→そこに頻繁に通っていた元官僚→そんな人物の言い分を信じてはならない》の三段論法? だが、僕には『前川さんVS安倍内閣・読売新聞』の構図に見えてしまう」と述べる。なるほどその通り。

「西山事件」を連想させる展開に

次に「あの『西山事件』を思い出した」と書いているが、この私(沙鴎一歩)も読売の記事を読んで西山事件を連想した。だから前回この欄で「下ネタで問題の焦点をぼかして相手を攻撃し、世論を見方にしようとする作戦はこれまでもよく使われた」と書いたのである。

牧氏のコラムによると、西山事件は第3次佐藤栄作内閣のときに起きた。ニクソン米大統領との沖縄返還協定に関する出来事だ。米国が支払うことになっていた「地権者に対する土地原状回復費400万円」を実際には日本政府が肩代わりする密約が結ばれていた。毎日新聞政治部の西山太吉記者がその密約をにおわす記事を書き、社会党議員に情報を提供した。社会党は西山記者が提供した外務省極秘電文のコピーを手に国会で追及。世論は佐藤内閣を強く批判した。

ところが、極秘電文を西山記者に流したのは、西山記者と親しい女性事務官だった。2人は国家公務員法違反の疑いで逮捕、起訴される。起訴状には「ひそかに情を通じ」という言葉が記載され、「週刊新潮」が2人の男女関係を報じると、世論は一変してしまった。

山崎豊子氏の小説『運命の人』のモチーフとなり、テレビドラマにもなっているから、ご存知の読者は多いだろう。それにしても「権力は恐ろしい」(今回の牧氏のコラムの見出しにもなっている)。