お金がかからない政治献金とは

地政学的にみて、TPP離脱やNAFTAの再交渉についてのトランプの決断を中国はおそらく歓迎するだろう。アメリカは信じられない速さで、国際社会からの信頼を失っている。もしトランプが実行すれば、中国もある程度経済的打撃を受けるだろう。製造業のグローバルチェーンを破壊することになるからだ。そして多くの人が痛みを覚えることになる。

だからこそ、製造業をはじめ、企業には今から気をつけてほしい。トランプはトヨタがメキシコ工場の建設を進めていることに関して、ツイッターで名指しで批判した。トヨタはこのツイッターを無視せず、米国へ今後5年間に100億ドル(1兆円超)を投資する計画を明らかにした。トランプを喜ばせることを言うのは、政治的影響力を買うのに安上がりの方法だ。いずれ実行する予定であったことを前倒しで発表して、ホワイトハウスに花を持たせることはお金がかからない選挙献金と同じだ。だから、企業がホワイトハウスからの要望に応えているかのように行動することは強いインセンティブになる。そして結局経済が悪化することに人は気づくが、それにはしばらく時間がかかる。

世界の変化を受けて、日本経済はどうなるか。アメリカ経済が悪化することが明確になるまで、しばらく時間がかかるが、それまでは日本経済もいい。ただ貿易交渉が2国間で行われるから、FTA(自由貿易協定)の結果次第だ。タフな交渉能力が必要とされる。

政治家がツイッターを使うのは、政治的な宣伝のためなので、普通は注意を払わなくてもよいが、この男には自制心がないので、彼の頭の中で何が起きているかを知る窓になる。トランプのツイッターは重要なメッセージを読み解く貴重なツールだ。私が日本の首相ならツイッターを監視するだけでなく、複数の精神科医を結集させて異常な行動を予測するチームを作る。それくらいしないと彼の行動は予測できないのだ。専門家のチームを作ればトランプの行動を予測するのは、それほど難しくない。トランプはナルシシズム性人格障害を持った人だから、自我を増強するためにはどんなことでもするだろう。政策上筋が通らなくても実行するだろう。そのことに対してアメリカの政治システムが最終的にどう対応するかは、私も予測できない。