反対意見を貶める、ただの「レッテル貼り」

もう今のメディア、特に新聞には笑っちゃうね。どこまでポピュリズムという言葉が好きやねん! と。政治の欄を読む間に何回ポピュリズムという言葉に出くわすか。

これは日本だけでなく世界も同じ傾向だ。新聞だけでなくその他の紙メディア、そして自分は賢い、自分以外の国民は愚かだと信じ切っている自称インテリの記事になればなるほど、ポピュリズムという言葉が氾濫する。

先日の読売新聞12月5日夕刊の、イタリア国民投票の解説記事を引用する。

「欧州 大衆迎合のうねり
レンツィ伊首相が進退を懸けて問うた憲法改正は予想外の大差で否決され、イタリアを覆う《ポピュリズム(大衆迎合主義)》のうねりの大きさを改めて示した。長引く景気低迷や高止まりする失業率に有効な対策を打てない既存政治や権威に対する国民の不満や怒りは強い。英国の欧州連合(EU)離脱、米大統領選でのトランプ氏勝利に続き、大陸欧州も《ポピュリズム》にのみ込まれた。
レンツィ氏の事実上の信任投票となった国民投票で、『反レンツィ』運動に火をつけたのは、新興《ポピュリズム》政党の五つ星運動だ。体系だった政策を訴えるのではなく、反緊縮財政、反腐敗といった既存政治への不満の受け皿として勢力を伸ばし、英米の余勢を駆って全国でキャンペーンを展開した。2018年に予定される総選挙で、欧州通貨ユーロからの離脱を掲げる同党の躍進も現実味を帯びてきた。
一方、オーストリア大統領選の決選投票では、難民規制など《ポピュリズム》的政策を訴えた極右政党の候補者が敗れ、《ポピュリズム》に一定の歯止めがかかった。
欧州は来年、『選挙イヤー』を迎える。3月にオランダ総選挙、春に仏大統領選、秋には独総選挙があり、いずれも《ポピュリズム》勢力の伸長が予想されている。イタリアで起きたうねりが、欧州諸国に連鎖的に影響を及ぼしていくのか注目される。」

この解説記事はポピュリズムという言葉だけで語っている。そこにレンツィ改革についての深い洞察はない。

はっきり言うけどね、ポピュリズムという言葉には何の中身もない。ポピュリズムという言葉は、そのような判断をした国民は馬鹿だ、愚かだと決めつけているに過ぎないなんだよね。お前たちは馬鹿だ、だから賢い私の意見に従え、と。さすがにこんなことをダイレクトには言えないから、ポピュリズムという言葉を使っているだけ。これも「お前は馬鹿だ」という核心部分を隠してきれいごとを言う、ポリティカル・コレクトネスの一種だね。

この言葉は単なるレッテルだから、ポピュリズムという言葉じゃなくても、それこそ今大流行のPPAPという言葉でも何でもいい。上の読売新聞の解説記事のポピュリズムという言葉をPPAPに置き換えてみてよ。それでも十分意味が通じるから。それほど、ポピュリズムという言葉には何の意味もない。

むしろ、端的にポピュリズムという言葉を、「国民の馬鹿な判断」「国民の愚かな判断」と置き換えれば、凄くよく意味が通じるよね。

メディア、特に読者に物事をじっくりと考えさせる活字メディアの場合には、その「説明の仕方」が命だ。この説明が有権者の判断材料の柱になり、政治選択の場においては有権者の投票行動に大きな影響を与える。活字メディアの説明の仕方が、民主政治のレベルを決めると言っても過言ではない。

では、上記記事の解説はどうか。この解説は、今の自称インテリの解説の典型例だ。自分の考えと異なる意見に対して、世間では悪というイメージが付いている『ポピュリズム』というレッテルを貼って批判するだけ。実質的な中身の批判は何もない。

自分の考えとは反対の、イギリスのEU離脱賛成、レンツィ改革反対、トランプ当選、イタリアの5つ星運動、オーストリアの自由党ホーファー氏を、ポピュリズムというレッテルを貼ってそれはダメだと言っているだけ。なぜ多くの国民はそのような判断をしたのか、そしてその判断はなぜダメなのかをもっと深掘りして説明をしなければならないのに、そのような解説はない。ここが今の新聞、活字メディアがダメになってきた根本原因だ。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.34(12月13日配信)からの引用です。全文はメールマガジンで!!

(撮影=市来朋久)
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