本音を読み取るスピードと通訳するスピード

横山カズ・同時通訳者

【三宅義和・イーオン社長】横山カズさんは英語の同時通訳者、翻訳家などさまざまな分野で活躍しておられます。さらに武道や格闘技の経験もお持ちです。通訳というと国際会議などで活躍する同時通訳を思い浮かべる人が多いと思いますが、具体的にどういう仕事なのか紹介してください。

【横山カズ・同時通訳者】僕の仕事の領域としては会議と交渉があります。なぜ会議の場で同時通訳が必要かというと、出席者がそれぞれ多忙で時間がないからです。海外から著名な参加者が来たとすると、とにかく多忙で1分1秒でも惜しいということは、決して少なくありません。すると、間髪を入れずに訳すことが求められます。速いときは0.5秒後ぐらい、遅くとも数秒後には僕が訳しはじめ、ほぼ同時に終わる。これで時間の節約になりますね(笑)。

【三宅】確かに同時通訳だと、ほとんどタイムラグがない。

【横山】次に交渉ですが、この場合は机をはさんで、僕の依頼人と相手との駆け引きに入る。例えば、ジュエリーの買い付けで香港に行ったとします。取引金額が大きく、丁々発止の議論になります。そういうときに、片方の主張が終わるのを待って通訳していたのでは間延びしてしまう。

その場の張りつめた空気と交渉のリズム、ときにはジョークが出るときもありますので、ほぼ同時に、両者の気持ちになりきって訳していきます。ただ、双方の主張を訳すので言語をスイッチしつつ進めます。

【三宅】日本の依頼人が言うことは即座に英語に訳し、外国人の交渉相手が言われることは瞬時に日本語に訳すということですよね。

【横山】そうです。でも僕は会議より交渉のほうが好きです。もちろん、どちらも大変ですし緊張感もあります。しかし交渉事は相手の意図がわかったらリズムに乗って進んでいきます。上手なダンサーと踊っているような快感がありますよ(笑)。そこで必要なのは、依頼人の意図や本音を読み取るスピードと口にした言葉を英語に置き換えるスピード。

最近では、読む・聞く・話す・書くという4技能の必要性が話題になっていますが、いつも僕はその前提として「英語で思う」ことが大事だと言ってきました。だから僕は通訳の際にも、相手の思いを汲み取り、その人になりきって言葉を入れ替えることをずっと心がけています。

【三宅】相手の気持ちになりきるといいますが、英語と日本語を行ったり来たりする。しかも、臨機応変さも必要でしょう。実際にはとても大変ではないですか。

【横山】いえ、訓練すればかなりできるはずです。僕の場合は、通訳をする人物に興味を持つということを心がけてきました。もっといえば、好きになってしまうわけです。現在、大手企業のトップの方々の通訳をさせていただいていますが、間近に接したクライアントの方々に尊敬の念を抱きました。すると、その人の発想の傾向や言い回しを覚えたくなってくるんです。