仕事を進めるうえで最も大切なのは、取引先や顧客、あるいは上司や部下、同僚との信頼関係を築くことだ。信頼をつくり上げるもの、そしてそれを壊すものは何なのか……それぞれの道で認められた「仕事の神様」に聞いた。
鍵山秀三郎氏の朝は早い。毎朝6時には掃除を始めるからだ。鍵山氏は「日本を美しくする会」を立ち上げ、経営の最前線から退いた後も掃除活動をしている。この日もまだ日が昇らぬうちに仲間が集まり、公園の掃除に汗を流していた。掃除をすることが、なぜ信頼につながるのか。

まわりから信頼を得るにはどうすればいいのか。ドイツの哲学者ディルタイは「信頼は相手のために払った犠牲の質と量に比例する」と言いましたが、私も同感です。本物の人間とは、言っていることとやっていることが同じ人です。もっともらしいことを言う人はたくさんいますが、口だけではいけません。実際に行動して何か犠牲を払っている相手に、人は信頼を寄せるのです。

イエローハット創業者、NPO「日本を美しくする会」相談役 鍵山秀三郎氏

掃除を続けるうち、周囲に変化が

私の場合、それが掃除でした。社内はもちろん、会社周辺も掃除します。トイレ掃除では、便器の中の水濾しも取り出してきれいにします。どんなに汚くても、手で徹底的に洗います。そうした積み重ねによって、まわりへの説得力がついてきます。

1976年、イエローハットの本社を北千束に移したときです。前にいた会社がいい加減だったようで、何も関係がない私たちまで近所の人から目の敵にされました。しかし、近隣のゴミ拾いをはじめ、駅の改札の外を掃除するうちに、反応が変わった。もっとも批判的だった隣の家の人も「この土地をあなたのところに買ってほしい」とまで言ってくれました。掃除を続ける姿には、やはり人の心に響くものがあるのです。

その後、中目黒に引っ越したときも同じことが起きました。最初は歓迎されませんでしたが、近隣地区一帯と近所の公園の掃除を続けているうちに変わってきて、手伝ってくださる地域住民の方も出てきました。いまはまた本社は移転しましたが、目黒川沿いの落ち葉を集め堆肥にするスペースを借用していることもあり、公園の掃除は続けています。