ヒラリーか、トランプか? アメリカ大統領選挙が混沌としている。民主党、共和党の両党とも支持者の意見が割れていて、大統領候補のヒラリー氏、トランプ氏も決め手を欠き、両者のデッドヒートが続いている。「お金の流れで世界を見抜け」が副題の近著『政府はもう嘘をつけない』の著者で、国際ジャーナリストの堤未果さんに、アメリカで今、何かが起きているかを聞いた。
NY州大学でおこなわれた2016年米大統領選挙 第1回討論会(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)

未曽有の大統領選が二大政党制をぶっ壊す!?

アメリカの大統領選が複雑な様相を示している。通常であれば、この時期には民主党と共和党で大統領候補の支持がはっきり分かれているはずだ。民主党と共和党との間で、揚げ足取り合戦やネガティブキャンペーンなどがあり、国民はそのどちらかにつく状態になる。ところが今回は、民主党・共和党の両党内部で支持者の意見が割れている。これは二大政党制という従来の仕組みがもはや幻想だということに多くの国民が気づき始めたことに他ならない。

そしてそれ以外の国民は、二大政党もダメだが、共和党政権になるくらいなら民主党、民主党政権になるくらいなら共和党の方がましという狭められた選択肢の中でのジレンマを抱えている。今までのような、民主党と共和党の一騎打ちのスポーツのような分かりやすい構図ではない、異例の大統領選となっているのだ。

従来の共和党は小さな政府を志向し大企業寄りと言われていたが、共和党候補のドナルド・トランプ氏はまったく立場を異にする。そもそも既存の共和党員ではなく、その発言は共和党の主張とは異なるものが多い。共和党のエスタブリッシュメントたちは、トランプ氏が大統領になると共和党のイメージが壊れる上に、下手をすれば党の存続すら危ういと考えている。ネオコンはヒラリー支持だ。

トランプ氏の政策は、国内雇用を増やすことを最重視している。NAFTAを前例としてあげ、国家に税収をもたらさないグローバル企業と銀行だけが儲かり国内格差を拡大する自由貿易ではなく、年金・医療・教育などを強化し、国内への投資を最優先すべきだとしている。自由貿易を推進する上位1%の超富裕層から献金を受け取らない自分だけが、それを実現できるというトランプ氏に、NAFTA以降悪化を続ける実体経済の中で疲弊している国民が期待をかけているのだ。

一方の民主党の支持者もジレンマを抱えている。元ファーストレディ・国務長官として抜群の知名度を持つヒラリー・クリントン氏と候補者指名を争ったバーニー・サンダースの存在だ。弱者の味方として支持を集めていたサンダース氏を応援していた「金権政治にメスを入れたい」有権者は、指名されたからと言って1%の紐付きであるヒラリー氏を支持できない。ならば共和党のトランプ氏にというわけにもいかない。

民主党が指名した候補者を支持しない民主党員がこれだけ出てくる状況もまた、前代未聞だと言われている。二大政党以外の大統領を求める声も拡大している。ウォールストリート・ジャーナル紙が行った世論調査では、リバタリアン党で元ニューメキシコ州知事のゲイリー・ジョンソン候補が10%、緑の党で医師のジル・スタイン候補が5%の支持をそれぞれ得ているという。

さらにウィキリークスが、ヒラリー側のスキャンダルを投票月の直前の 10月に「オクトーバー・サプライズ」として公表する予告をしているのも興味深い。エクアドル政府を通して何らかの圧力がかかれば公表は断念されるだろうが、万が一これが現実になれば、ヒラリー陣営は重大なダメージを受けることになるだろう。