これまでインタビューした社長は1000人以上。数多くの経営者と接してきた著者はリーダーを見守る側にいたが、最近、自分がその立場に押し上げられる体験をした。

藤沢久美(ふじさわ・くみ)
シンクタンク・ソフィアバンク代表。大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。13年より現職。

「会議で書記をやったり、飲み会で仕切ったり、みんなのやりたがらない仕事をこなしていたら、周囲から『リーダーになってほしい』と言われたんです。自分自身、人を引っ張っていくタイプじゃない。リーダー像が変わってきた気がしました」

同時に、先頭を切って走るようなカリスマ型リーダーが、上場企業の経営者に少なくなってきたことも感じていた。現代の新しいリーダー像を整理する目的で、筆を執ったのが本書である。

著者によれば、今はいいリーダーほど現場に任せ、ああしろこうしろと細かく指示を出さない。「ありがとう。みんなのおかげだよ」とおもに感謝を述べているので、何もしていないように見える。

「何をしているかというと、頭の中でビジョンをつくっています。ビジョンとは『その会社で実現したいこと』であり、『働く目的』。ビジョンさえ明確であれば、社員をわざわざ動かさずとも、自発的に動いてくれるようになる」

これまでは大きなビジョンを掲げて、起業するのが一般的なリーダー像だったが、今は一社員から抜擢されたり親を継いだり、著者同様トップに押し上げられるパターンが増えた。すべてのリーダーが最初から確固たるビジョンを持っているわけではないのだ。

「でも誰もが『世の中にこれがあればいいよね』ぐらいの小さなビジョンは持っていて、それを彫刻のように削ったり磨いたりして形作っていく。そのために考え続け、悩むのがリーダーの仕事なのです。たぶん、ある日突然重いものを持ち上げられるようになる筋トレと一緒で、日々悩んでいるうちに力がつく。そこまで悩み続けられる、内向的な人こそリーダーに向いているはずです」

カリスマ型リーダーはしばしばボスザルに例えられる。それでは内向型はどんな動物なのだろうか。問いを向けると、「母ザルですね」という答えが即座に返ってきた。

「経営者を見ていると、性格の違う家族を温かく見守って、いざというときは自ら行動する人が多いので。経営者に求められるものが、父性から母性へと移っているような気がするんですよ」

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