周知のように介護保険サービスは各利用者の要介護レベルに応じて1カ月の限度額がある。軽度の「要支援1」は約5万円(1割の自己負担で約0.5万円)、最重度の「要介護5」は約36万円(同約3.6万円)。

もちろん、必要であれば限度額いっぱいまで各種サービスを利用してもいいが、業者の中には、無意味にサービスの回数を増やしたり、不必要なサービスを付けたりすることで、故意に限度額に近い額に増やして、自分たちの収益を上げようとする。知らぬ間に、余計な費用を払わされていることもあるわけだ。2015年8月から一部の人は自己負担が2割に引き上げられたので費用も高くなっている。受けられるはずのサービスが届かないケースもあるという。

「入居者側が納得して利用するのならいいのですが、実際は押し付けに近い。入居前の説明で『ウチはこんなサービスを提供します』とパッケージのような形で盛りだくさんのメニューを提示される。本来なら、入居者やその家族が介護サービスをオーダーメードで選択できる決まりにもかかわらず、それを伝えない。系列外の介護サービス事業者が入り込めないところもあります」

実際、サ高住で介護サービスを利用する入居者が、「系列」の訪問介護を利用する割合は5割を超えている(14年・厚生労働省)。

ここに、大阪府内17市町のサ高住の入居者への介護サービスの利用実態資料がある。利用限度額に対するサービスの利用率は、在宅の要介護者の平均値よりもすべての要介護度で上回る。例えば、中度の「要介護3」では全国平均の利用率が約56%に対して、サ高住の入居者は約79%と23ポイントも高く、一人あたりの介護給付費(要介護3)も全国平均より約9万2000円も多い(13年、厚労省)。

長岡氏はこう付け加える。

「サ高住の定番サービスに、入居者の安否確認がありますが、夜間にスタッフがおらず、緊急時の対応に不安が残る施設もある。また、サ高住で利用できる訪問診療では、24時間対応にもかかわらず、実は夜間や休日は対応しないことがあとで露呈するケースも少なくありません」

無届けの怖さ閉ざされた世界で何が起こるか

長岡氏は、全国に増加する「有料老人ホームもどき」も問題視している。入居者に介護や食事などを提供する事業者は、自治体への届け出が求められている。だが、賃貸マンションや空き家などの部屋を貸し出し、介護事業者からヘルパーを派遣すれば容易に始められることもあって、届け出せずに運営されるケースがあとを絶たないのだ。

「無届けの場合、介護事業者によって虐待などがあっても、その発覚が遅れたり、不正請求の温床となったりしやすい。また、入居者が自治体に苦情を申し出ても相手にされないこともあります」

長岡美代
介護・医療ジャーナリスト。一般企業で経営企画に携わった後、介護現場を経て、高齢者の介護や老人ホーム、医療などの取材・執筆活動を続ける。著書に『介護ビジネスの罠』『親の入院・介護に直面したら読む本[新訂第2版]』など。
 
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