取材依頼をして11日後、「変人総理」と呼ばれ退任後10年間、メディアに出ない小泉純一郎氏から直接、快諾の電話が入って著者は驚く。

上写真は、取材時に著者が撮影した小泉純一郎氏。
常井健一(とこい・けんいち)
ノンフィクションライター。1979年生まれ。旧ライブドア・ニュースセンター、朝日新聞出版を経て独立。著書に『小泉進次郎の闘う言葉』『誰も書かなかった自民党』ほか。

これまでの3年間、次男の進次郎氏の講演や演説、視察を約300回取材してきた。一方、2014年の都知事選で、細川護煕元総理の応援をする純一郎氏を全34カ所で見た。現場百遍、著者の姿勢は一貫している。それが評価され、総理退任後初のロングインタビューが実現した。

「進次郎氏は原発問題について減らす方向性を打ち出していますが、純一郎氏は原発ゼロと一刀両断する。その違いはどこから生じるのか。父を調べることで、進次郎氏の考え方を深掘りできるのではないかと思い、純一郎氏への取材を模索したのです」

本書のなかで、純一郎氏は原発、安倍政権、野党再編、郵政民営化の秘話、離婚、2人の息子について、豪放に語る。原発ゼロの理由を問われ、〈(原発推進論者の話が全部)間違っているってわかったからよ。ひでえことを俺も信じてきたなという自分への悔しさ、不明の至りだな〉

軽減税率については、

〈公明党は必死でやっているけど(中略)富裕層に軽減税率を設けてあげてどうする〉

純一郎氏の発想は非常にシンプルで明快だ。

「大多数が望んでいることを推し進めるのが政治家だ、というのが純一郎氏のスタンスです。永田町で猛反対された郵政民営化も、あれほどの無駄は許せないという多くの国民の声をもとにした議論でした。原発ゼロもしかり。国民の6割から7割が賛成する政策はほかにはなく政治家として真摯に取り組むべき、という考え方なんです」

一方で本書は、ビジネスの世界でリーダー論としても役立つ。自ら貪欲に動いて人の上に立ち、敵味方が入り交じる中で敵をも取り込めと説く。

「例えば、安全保障のような国の根幹に関わる政策は選挙の争点にしてはいけない。多くの国民が賛成できる形にするために、見解の相違がある野党とも対話し、連携したうえでつくらなければ、安定的な安全保障はできない、という発想を熱弁していました」

撫でるような取材では対象の人物像は浮かび上がらない。大きく踏み込みながらも適正な距離を保つ。そこに信頼関係が生まれる。元総理の本音が引き出されている。