食事と一緒に楽しむ「新しい価値」とは

営業チームが取り組んだのは、居酒屋向けの活動だった。その中で、ジョッキで飲むという新たなスタイルが提案された。狙いは、ハイボールをビールやチューハイと並ぶ乾杯の飲み物とすることだった。それまでのように、ハイボールをゆったりとタンブラーで用意していては、わっと乾杯する居酒屋には合わない。そこで、角瓶の亀甲ボトルをモチーフにした専用ジョッキがつくられた。店頭でハイボールのジョッキにソーダを注ぐ専用サーバーも導入された。必要な要素を見逃さずに、きっちりと提供していくのがサントリー流だ。

続いて2009年にはテレビCMが投入され、角ハイボール缶が開発された。家庭への飲用シーンの広がりを捉えるべく、営業部隊はコンビニやスーパーに向けた活動を開始した。ウイスキーの新たな飲み方とシーンが広がり、その販売は再拡大へと転じていった。

サントリーが主導した国内ウイスキー市場の再生は、食事と一緒に楽しむお酒という、新たなポジショニングの確立を通じて進んでいった。同じウイスキーであっても、視点を変えたことで、新たな価値が生まれたのだ。

ポジショニングが示すのは、視角というものの重要性である。品質や機能で日本一、さらには世界一へと登り詰めていくことだけが、企業にとっての高付加価値化の道筋なのではない。

離島を旅するときに、あなたがより惹かれるのは、東京でもトップレベルと評価されているレストランと、島での人気食堂のどちらだろうか。甲乙つけがたい? そうだろう。それが、たとえ料理の技やインテリアのセンスでは多少劣っても、トータルの魅力はポジショニングでひっくり返せるということだ。

ものづくりは大切だが、それだけに固執していると、事業から引き出せるはずの価値の可能性を狭めてしまう。だからこそ、企業が製品・サービスの価値を高めることで活路を拓く今の時代には、ポジショニングが重要となる。

【関連記事】
古くて新しい製品「サントリー・ハイボール復活物語」
「ハイボール」25年目の大逆転ホームランを生んだ上司のひと言 -サントリー ウイスキー部課長
「売れない時代に売れる」法則はあるか
アサヒ・キリン・サントリー・サッポロと大手全社参入! ニッチな「クラフトビール」が注目されるワケ
春爛漫! ハイボールブームに続けるか? ピンクのアイツがやってきた