弘兼憲史の着眼点

▼古城の風格を備えた「ホグワーツ城」の魅力

対談の翌日、あらためて園内を巡りました。「ハリー・ポッター」のエリアは針葉樹に囲まれています。映画スタジオを模した周囲のエリアと、イメージを分ける配慮ですね。森のなかの小径を進むと、まわりから不思議な音が聞こえてきます。魔法の世界に入り込んだようです。森を抜けると、魔法使いの住む村に辿りつきます。多くのゲストは、映画にでてくるハリーと同じローブを着て、名物の「バタービール」に長蛇の列をつくっていました。さらにその先には「ホグワーツ城」が見えます。城壁は本物の石造りのようで、古城の風格がありました。

平日の午前中でしたが、一番人気のアトラクションは「250分待ち」。それでも城内では魔法の世界らしい見所が多数あり、ゲストを飽きさせません。多くの人たちが待ち時間でさえ楽しんでいるように見えました。

森岡さんは私の漫画作品の熱心な読者だそうです。森岡さんの鋭い分析を聞いているうちに、マーケターの視点から『課長島耕作』がどのように分析できるかが気になってしまいました。森岡さんの分析はこうです。

「サラリーマンの世界が非常にリアルに描かれています。企業経営の現場だけでなく、派閥抗争や女性関係も描く。それでいて上品で、全編を通じて知性を感じます。だから物語を自分の身の回りの話に都合よく置き換えることもできる。読んだ後には、『よし、俺も頑張ろう』と感じ、大きな爽快感がある。サラリーマンへの応援歌。これが最大のベネフィットだと思います」

自分のことはわかっているつもりでわかりませんね。わずか3年間ですが、私には会社員の経験があります。だからある程度は「サラリーマンとは何か」がわかる。一方で、はやめに辞めたので、企業の論理には染まりきらなかった。爽快感はそのおかげでしょうか。

▼「大阪・京都・神戸」は「キョウト」で世界に売る

森岡さんには「マーケターとして大阪をどう世界に売り込みますか」という質問もしました。回答は「大阪を京都の一部にします」。京都には「世界遺産」として世界的な知名度がある。一方、東京は歴史が浅い。京都、大阪、神戸という3つの地域を「キョウト」として世界にアピールすれば、東京との差別化ができる。たとえば「関西国際空港」は「京都国際空港」に変えてもいい。目から鱗の落ちる意見でした。

USJ復活の立役者、社長のガンペルさんは外国人、森岡さんは中途入社、いわば組織の“異物”です。異物だからこそ、自社の可能性を冷静に分析できたのでしょう。日本を観光立国にするならば、異物を中に取り込む懐の深さが必要かもしれません。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 川隅知明=撮影)
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