時間管理術は年収層に関係なく浸透したが、それでもこの1年で忙しさは増している。「個人と企業の新しい関係」を説くコンサルタントがもう一歩先に行くための心構えを提言する。

ビジネスマンは平日、週末の時間をどのように使っているか。さらには1年、10年、定年までの時間をどのように捉えているか。幸せと感じる時間はあるのか――。プレジデント誌では「仕事時間」「帰宅後・休日」「未来の時間」「幸せ時間」の4つに分け、ビジネスマン1000人にアンケート調査を行った。

→アンケート調査結果 http://president.jp/articles/-/17104

時間管理を徹底し、帰宅後は家族との時間を楽しみ、出世意欲はない……。この傾向の背景には2000年以降、「頑張れば報われる」という法則が会社組織で成り立ちにくくなったことがある。企業そのものの存続が危うくなったり、40歳以上の社員に早期退職勧奨されることが増えたりして、頑張っても報われないかもしれないという感覚が強くなっているのだ。

仮に頑張って出世しても、給料は上がらず責任だけが重くなる。そうなるとなるべくリスクを負わずそこそこのポジションに収まって、仕事でなく家族や趣味で自己実現すればいいという考えに傾きやすくなる。ただ、そこには「自分さえこのままでいれば周りも変化せず、いまのポジションと給料が手に入り続ける」という錯覚がある。

もし5年前に同じアンケート調査をしていたら、もっと別の結果が出ていただろう。リーマンショックに見舞われ、明日は仕事がなくなるかもしれないという危機感で、こんな悠長なことはいっていられなかったはずである。

その意味では、たった5年間で自分の半径50cmの世界にこもるといった価値観が浸透し、仕事の効率化はそれを実現するツールとして機能したといえよう。しかし、そこから世の中を突き動かすようなエネルギーは生まれようもない。それでも自分が幸せならよい、という声もあるだろう。だが、その結果もたらされる社会が、最終的にはブーメランのように自分に返ってくるのだ。

では、どうすればよいのか。結論から述べると、それぞれの個人が「自分のゴールを持つ」ことだと思う。

今回の調査結果でポジティブな面として注目されるのは、仕事を効率化して進めようと決めるとそれに向かって突き進み、実行していくパワーにある。つまり、日本人にはこうと決めたらやり切る真面目さがあるのだ。

この能力、性質を活かし、いま閉じた方向に向けられているエネルギーを別の方向に向けられれば、きっとパワフルな社会がつくれるだろう。その第一歩として5年後、10年後にどんな状態になっていたいのかを、まずはノートに1行でもいいから書いてみることをお勧めしたい。

自身の能力の向上でも、家族や地域の幸せに関することでもいい。大切なのは「私はこれをやりたい」という、自分のなかに熱い情熱を燃やせる何かを持つことである。もし会社がなくなったとしても、自分の人生は自分で責任を負わなければならないのだから。

マネジメント層は社員に向けて「何か新しいものをつくろう」という働きかけをしていくべきである。そのためには無駄も必要。新しい価値を生み出すことが求められている時代、個人の情熱と企業が目指すところをうまくシンクロさせることができれば、幸福感も増していくのではないだろうか。

シグマクシス パートナー 柴沼俊一(しばぬま・しゅんいち)
1995年、東京大学経済学部卒業。2003年ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクール卒業。日本銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニーなど経て現職。共著に『アグリゲーター 知られざる職種 5年後に主役になる働き方』がある。
(宮内 健=構成)
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