時間管理術は年収層に関係なく浸透したが、それでもこの1年で忙しさは増している。「個人と企業の新しい関係」を説くコンサルタントがもう一歩先に行くための心構えを提言する。

ビジネスマンは平日、週末の時間をどのように使っているか。さらには1年、10年、定年までの時間をどのように捉えているか。幸せと感じる時間はあるのか――。プレジデント誌では「仕事時間」「帰宅後・休日」「未来の時間」「幸せ時間」の4つに分け、ビジネスマン1000人にアンケート調査を行った。

→アンケート調査結果 http://president.jp/articles/-/17104

時間管理を徹底し、帰宅後は家族との時間を楽しみ、出世意欲はない……。ここから見えてきたのは内向きなビジネスマンの姿である。

結果を俯瞰すると、個々人が効率を追求した結果、社会全体としてのエネルギーが失われつつあるように感じる。できるだけ効率よく与えられた仕事をし、早く家に帰って食卓を囲むといった、自分と家族を中心とした半径50cm以内の閉じた世界にこもっている人が多いという印象を受ける。

本来、仕事の効率化は何らかの目的を達成するための手段であって、目的ではない。年収2000万円以上の層ではおよそ半数が未来の目標を立て、そのためにいま何かに取り組んでいるが、年収500万円台、800万円台となると20%台に落ちる。

つまり、年収2000万円以上では効率化によって空いた時間で何をしたいかを意識しているといえるが、年収500万円台、800万円台の層では家族との時間を過ごすこと以外に見えてこない。

もちろんだらだら仕事をしないことも、家族と過ごす時間を持つことも大切である。私自身、妻がフルタイムで働いているため、2人の子供の育児や家事に多くの時間を使っている。いまは小学生になったので変わってきたが、以前は毎日18時に退社し、保育園への迎えや夕食はすべて私の担当だった。そのために仕事のやり方を見直し、無駄な時間を一掃した経験もある。

しかし、いま社会全体として必要とされているのは、イノベーションによる新しい価値の創出である。ところが効率化しすぎて遊びがなくなり、将来のための勉強もせず、リスクを取らず家庭に閉じこもる人ばかりになればイノベーションを生み出せなくなってしまう。現在は社会が大きな危機を迎えているといえるかもしれない。

個人と会社という視点では、会社へのロイヤルティの低さが見て取れる。組織の中で出世したい人は極めて少ない。アメリカの人事コンサルティング会社「ケネクサ」が世界28カ国の社員3万3000人(100人以上の企業・団体)を対象に行った調査によると、「仕事に対するやる気」(注:項目は「組織の成功に貢献しようとするモチベーションの高さ」)は日本が断トツのワーストワンであった。それを裏づけるような結果であり、企業は社員のモチベートに失敗しているといえよう。

ところが出世したくないとはいいながら、「同じ会社に長く勤める」を理想とする人が年収500万円台、800万円台では50%を超えている。出世は望まないが会社にしがみついてはいたいということだろう。「仕事や会社がなくなったらどうする」とは考えないのか、と思ってしまう。

シグマクシス パートナー 柴沼俊一(しばぬま・しゅんいち)
1995年、東京大学経済学部卒業。2003年ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクール卒業。日本銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニーなど経て現職。共著に『アグリゲーター 知られざる職種 5年後に主役になる働き方』がある。
(宮内 健=構成)
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