どこをどうすれば、いくら浮くのか。どれだけ圧縮できるのか。シビアなコスト感覚がうかがえる発言は、裏方である整備部品質保証課の課長・山本朝彦からも聞くことができた。

15年10月、ピーチは国内のエアラインとしては最速で、所有するエアバスA320型機すべての連続式耐空証明を国土交通省から取得している。耐空証明とは、航空法14条に定められている航空機を飛行させるために必要な証明のこと。年に1回、強度、構造、性能などの耐空検査をクリアして初めて交付される。有効期限は1年。車でいう車検のような検査だ。


「お客様のために必要なものでなければお金はかけない」というピーチの徹底した姿勢が表れたオフィス。椅子は中古のために種類がバラバラ。配線も床に埋め込むと数千万円かかるということで、上から垂れている。

だが、耐空検査には手数料がかかり、テスト空域で実施する飛行には当然ながら燃料と人件費を伴う。

「これがバカになりません。検査を受けるために、定期便も運休しなければならない。そこで、2年前から連続式耐空証明の取得に取り組みました。航空法14条には但し書きがあって、整備体制が確立し、品質も保証され、運用管理をじゅうぶん継続できる能力を組織が維持していると認められれば、連続式耐空証明が取得できるんですね。これを取れば、もう耐空証明検査を受ける義務がなくなる。3年7カ月かけてようやく全機取りました」(山本)

航空会社として絶対不可欠の安全性を担保しながら、細部を見直し、省けるコストは徹底的に省く。この方針のもと、山本は整備マニュアルも一から作成した。必要な部品の傾向を分析し、使用頻度が高くないものについては他社と共有するなどして整備の効率をアップ。さらに飛行機を格納庫に入れ、数日かけて行う純整備ではなく、何万何千という作業アイテムを分散させ、日々の整備の中に盛り込むことで、機材を止める時間を低減させる手法を採用した。このほうが運航頻度が上がる。

「大手のマニュアルをベースにすれば楽ですが、二番煎じではLCCのビジネスモデルはつくれない。手間をかけてでも、整備のコストを抜本的に見直す必要がありました」