ブランドにおける哲学や思想を訴求する理由

最後、最上位の「いつもブランドXを飲んでいる(ヘビーユーザー)層」に対しては、ブランドXがこれまで提唱してきた哲学や思想、あるいは社会的な存在価値の話がそのまま通じるはずなので、それをメッセージとして巧みに訴求する。そうした深い哲学や思想の再確認・再強化を通じて、商品としての鮮度が維持され、消費者にとって年をとっても飲みたい商品として心の中に刻み込まれる。

ブランドには、いくつものキャンペーンが時間を経て続いていく。それらを、手際よく整理し、ブランド・エクイティを育てるプログラムが、ここで言うブランド成長プログラムである。ブランドに関わる消費者市場を細分化して、それぞれの市場にアプローチする手法を、当たり前の組織の方法として、手の内に入れておきたい。

まず、「今回は、どの層に訴求すべきなのか」を決める。顧客の絶対的規模が縮小している時期には、新しい消費者を狙ったコミュニケーションが採用されるだろうし、ブランド自体のアイデンティティが弱ってきていると思えば、ヘビーユーザー向けにあらためて高いロイヤルティを維持・高揚すべくコミュニケーションを図るだろう。

訴求すべき層が決まれば、やるべきコミュニケーションの目的と内容指針は比較的簡単に決まる。大事なことは、自分のブランドの目標を定めること、そしてそれに合ったコミュニケーションのオプションをあらかじめ準備しておくことである。「予期して備える」のは、マネジメントの要諦である。

マネジメントでもう1つ大事なことはPDCのサイクル。「ブランドが嫌いな層に向けて打ったキャンペーン」は、もちろんその他の層の消費者にもいい影響を与えることが予想されるが、それはあくまで副産物。主たる狙いは「嫌いな層」にあって、その層に属している消費者が、そのキャンペーンの後、ブランドXに対する気持ちが変わったかどうかを確認することが一番大事である。キャンペーンの成否はともかく、確認しないことには次に打つ手が見えてこない。

ブランドに対しては長期にわたる慎重な配慮が必要だ。1つひとつのキャンペーンを、何年かのスパンで考えて位置づける。キャンペーンに対する目的を確定する。キャンペーンの成果を目的に沿って把握する。それに応じて次なる手を考える……。こうしたサイクルを動かすのは、ブランド・マネジャーしかいない。その役割は重要だ。

(平良 徹=図版作成)