2015年9月16日(水)

「強い国の弱いリーダー」が領土問題をこじれさせる

ニュースの謎、国際問題のカラクリ【尖閣・竹島・北方領土編】

PRESIDENT 2015年1月12日号

著者
手嶋 龍一 てしま・りゅういち
外交ジャーナリスト、作家

手嶋 龍一1949年、北海道生まれ。慶応大学経済学部卒業。NHKワシントン特派員時代の著書『たそがれゆく日米同盟』『外交敗戦』が注目され、ハーバード大学国際問題研究所に招かれる。独ボン支局長、ワシントン支局長を経て2005年に独立。『ウルトラ・ダラー』がベストセラーに。近著に『ライオンと蜘蛛の巣』他。

外交ジャーナリスト 手嶋龍一 構成=宮内 健
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台頭する中国に潜む強さのなかの弱さ

 領土問題は、その時々の国際政局をくっきりと映し出す「鏡」である。旺盛な国力を誇り、果敢なリーダーを擁する国家は、領土を押し広げようと攻勢に転じる。一方で、国力が傾きかけ、優柔不断な指導者しかいない国家は、領土交渉でも守勢に立たされる。いまの日本は、中国とは尖閣諸島、韓国とは竹島、ロシアとは北方四島(択捉島、国後島、色丹島、歯舞諸島)をめぐる領土紛争を抱えている。中・韓・ロの各国は、領土交渉に臨む日本の姿勢から日本の底力を推し測ろうとしている。

尖閣諸島は、日本が一貫して実効支配をしてきた事実は一度として揺らいだことがない。にもかかわらず、中国は突如として領有権を声高に主張し始めた。国連の調査で周辺の海域に石油資源が眠っていることが明らかになったからだ。

日中両国は、国交回復にあたって、あえて尖閣諸島の帰属を議題にしようとしなかった。解決を将来の世代に委ねることを暗黙の了解としていたからだ。当時の中国は、文化大革命で疲弊し、国際的にも孤立していた。国際社会への復帰を急ぐためには、隣国日本との領土紛争を避けたかったのだろう。

文革から抜け出そうとする1970年代の中国は、やがて「海洋強国」を呼号して周辺の海域に迫り出してくるようになった。確かにその後の中国は、目覚ましい経済成長を遂げ、GDPは日本を抜いて世界第2位となる。もはや、国際的な孤立を恐れることなく、尖閣諸島の領有権を声高に主張するようになった。

だが尖閣の領有権を主張する中国の対応も子細に検証してみると、強さを懸命に装いながらも、そこにいまの中国の弱さをはっきりと見て取ることができる。いったんこぶしを振り上げてしまった以上、国民の手前、簡単には下ろすことができないのだろう。

2014年11月、APEC(アジア太平洋経済協力会議)を機に日中の両首脳は2年半ぶりに会談した。習近平国家主席は、安倍首相に微笑みひとつ示さなかった。会談に先立って尖閣諸島と明示した合意文書のとりまとめにこだわり、領土問題で譲歩の姿勢を見せなかった。国家主席でありながら、その政権基盤がいまだに固まっていないことを窺わせて興味深かった。党幹部の凄まじい腐敗が頻発し、分離独立の動きや経済格差を抱える中国には、尖閣問題で柔軟に対応する余力がないのである。

尖閣諸島は日本が実効支配しているのに対して、竹島は韓国が実効支配している。韓国は、1952年、李承晩ラインと呼ばれる境界線を一方的に引いて竹島を自国領に組み入れ、現在も武装警察官を常駐させている。

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