住宅を設計する際には、お客様がどんな人生を送り、新居でどんな暮らしをしたいのか、その想いに耳を傾け、形にしていくことがもっとも重要だと考えています。

最近の建築物は、断熱性能やエアコンなどの導入で機械効率を高めることにばかり重きが置かれているようです。もちろんこれらも大切なことですが、太陽光や風などの自然エネルギーを活用したほうが、節電や地球環境問題への配慮にもつながるはずです。

「エコだハウス」でも用いた「パッシブソーラー」は、太陽や空気など自然エネルギーで快適な住空間をつくり出すことができます。「パッシブソーラー」を導入すれば、災害時に電源供給が不足した場合でも、自然エネルギーの活用により室内の快適性が保たれます。健康や居住性を考慮したうえで、節電やCO2削減など環境にもやさしい家づくりが可能になるのです。

日本には、太陽光を遮断する軒の出、すだれ、屋根上から熱気を排出する越屋根などの独自の文化があります。それらを用いて、自然エネルギーをどのように活用できるか、設計段階で知恵を絞っていきます。

そんな私の設計への想いや経験が凝縮され、重なり合った工法が「エアムーブ住宅(工法)」です。太陽、風、空気などの自然エネルギーを利用した「夏涼しく、冬暖かい」住まいです。

夏、「エアムーブ住宅(工法)」が涼しい理由のひとつは「家まるごと換気」システムを採用しているからです。基礎部分の給気口から外気を取り入れ、壁内や屋根裏を通り、棟の排気口から熱気や湿気を抜くという「自然換気」の発想を取り入れています。この換気方法によって、効率よく建物全体の温湿度を下げることができます。

夜は冷気が基礎部分の給気口から床下コンクリートに冷蓄熱されます。その冷気が先の上昇する空気に引っ張られ、建物全体を快適に冷やすのです。

夏場、エアコンに頼らざるをえない従来の住宅のほとんどは、構造上、床下から壁内・屋根裏へ空気が流れる通り道がありません。気密性があり強力なエアコンで冷やせば室内は涼しくなりますが、CO2削減や節電、冷え性の方が安心して住める、という視点からすると、エアムーブが断然優れています。

一方、「エアムーブ住宅(工法)」が冬暖かく保たれるのは断熱性能がよいためです。基礎・壁・屋根と建物全体を断熱材で覆う「家まるごと断熱プラス太陽熱利用」です。

冬は夏に大活躍した基礎の給気口と棟の排気口を閉めます。

日中、建物の南側の壁や屋根面にさんさんと太陽熱が注がれ、躯体内の空気や床が暖められます。さらに熱は床下コンクリートで温蓄熱となります。

この熱のおかげで、家屋中の床が、スリッパなしでも歩けるぐらいホッとする温もりを帯びます。壁内や窓から建物内に取り入れられた暖かい空気は各パーツ断熱部材で高気密、高断熱を保たれながら空気の通り道を動き家中に循環されます。

夜は、昼間床下コンクリートに蓄熱された熱がコンクリートの持つ性質により放熱されるため、建物全体が暖かい空気で包まれます。この効果によって最小限のエアコンでポカポカになります。実際に小池百合子さんの「エコだハウス」では冬季に数度しか暖房をつけなかったそうです。

このように「エアムーブ住宅(工法)」が空気の流れを緻密に計算し、自然エネルギーを上手に活用できるのは、家づくりにおいて長年の研究開発の末に生み出された特許部材を取り入れているからです。その一部をご紹介しましょう。

エアムーブ住宅は、「ベタ基礎」と「基礎断熱」が標準仕様です。

「ベタ基礎」とは、建物を支える下部構造で、基礎底部のコンクリートがすき間なく連続し、1枚の板状になっている基礎のことです。くわえて、基礎断熱を採用することで、床下が外気の影響を受けずにすみます。

とりわけ「基礎断熱」には特徴があります。従来の基礎は、コンクリートを流し形成する際に型枠が必要です。その型枠は、コンクリートを流し固めた後に取り外します。「エアムーブ住宅(工法)」では、型枠を発泡素材でつくりました。これなら取り外す必要がなく、さらに断熱材としての役割も果たします。基礎断熱の問題点でもあったシロアリ対策も、型枠自体に防蟻処理を施すことでクリアしました。安心・安全に加え、工期も大幅に短縮し、コストが抑えられたのです。

このように「エアムーブ住宅(工法)」で使われている部材は、ひとつのメリットや効果を求めて開発されたものではなく、様々な利点がそれぞれに合わさることで多大な効果を生み出しています。

「エアムーブ住宅(工法)」をもっと知りたい方は「エアムーブ住宅」、棟排気システムは「エアスルー」、基礎断熱については「タイト・モールド」と検索してください。

※全図解でよりわかりやすいノウハウが、本書には収録されております。詳細はそちらをご覧ください。

(撮影=奥谷 仁)