2 歩くマナー本 なぜ、マナーを守る人を、人は憎めないか

進次郎は「歩くマナー本」と呼んでいいほど、礼節を重んじる政治家だ。

記者たちが話しかけると、進次郎は必ず「○○さんのその質問に対しては……」と、名前を呼びながら返事をする。記者は大抵、足元を掬ってやろうとか批判的に書いてやろうなどという思いがあるが、こういう対応をされるとやや甘くなってしまう部分がある。また、批判的な記事を書く私のようなフリーの記者であっても自ら声をかけていく。こうされると悪い気はしないのが人の情けだ。なかなかできることではないが、受け手にならず自分から先に発信することが彼のポリシーである。記者に限らないが、「自分は彼に認知されている存在」「一度会った人を忘れない」と相手に印象づけ、人を取り込む技術に長けているのだ。

こうしたことを自分に対して実行してくれる人を、人はなかなか憎むことができない。一つの言葉が持つイメージや有用性といったものを常に頭の中に入れている。

自民党青年局のメンバーから「独身議連」をつくる提案をされたときは、

「いや、マスコミを賑わせるから、少子化対策議連にしましょう」

という発想が咄嗟に出てくる。「独身」というと合コンするようなお遊び的な議連に見えるが、「少子化対策」と言い換えるだけで、前向きな若手の政治活動が浮かんでくる。

実践も怠らない。2012年2月から、東日本大震災の起こった日である毎月11日に「TEAM-11」として、被災三県を訪れている。避難生活を余儀なくされている人たちと意見を交換し、地元のリーダーと懇談する。

進次郎の動向が伝えられる際、被災地発の報道になることが多いのはこのためだ。毎月11日は東京や地元の日程をできる限り断るという。岩手県大槌町で若い男性が彼にこう言ったことがある。

「政治家は都合のいいことばかり言うので会うのも嫌なんですが、進次郎さんはしっかり被災地を回っている。だから今日、ここに来ました」

彼を密着していて思うのは、愚痴がほとんど出ないこと。唯一あったのは「寝る暇もなく、自民党は人遣いが荒いんですよ(笑)」と冗談混じりに言ったこと。ぼやきであっても笑いに変えるところにも品格が出ている。