2015年5月31日(日)

娘はまだ6歳、妻が乳がんになった

ドキュメント 妻ががんになったら【1】

PRESIDENT Online スペシャル

著者
桃山 透 ももやま・とおる
フリーランスライター

1968年、大阪府生まれ。ビジュアルリテラシー(東京支部)所属。大学卒業後、金融系会社の営業、コピーライター、出版社の編集者、業界新聞の編集長を経て、独立。主にビジネス書、実用書、医学書関連の執筆・編集・監修に携わる。得意なジャンルは整理術、手帳術で、著書に『サクッと1分間 整理・ファイリング術』などがある。

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フリーランスライター 桃山透=文
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その日までは「対岸の火事」だった

日本は世界トップクラスの「がん大国」で、2人に1人が「がん」になり、3人に1人が「がん」で死ぬ――。

こんな数字を知ったところで、危機感をもつ人は意外と少ないのではないでしょうか。私の周りの人たちを見ている限り、そう思ってしまいます。両親や兄弟が若くしてがんで亡くなっている人でなければ、まさに「対岸の火事」で、ましてや30代、40代の人ならまだ先の心配ごと、気をつけるのは50歳、もしくは定年退職後からでも遅くはない、と考える人は多いように思われます。

夫婦のどちらかが「がん」になっても不思議ではない時代――。

こう言い換えても、30代、40代の夫婦なら、ピンとこないかもしれません。私も例外ではありませんでした。47歳になったいまでも夜更かしは当たり前で、脂っこい食べ物や甘い物を好み、ときには暴飲暴食をし、たばこも吸うメタボ中年です。5年前に胆のうが原因不明の炎症を起こして壊死し、摘出手術を受けたというのに、です。

国立がん研究センターの2010年のデータによると、50歳までにがんになる人は男性で2%、女性で3%しかいません。2人に1人が「がん」になるというのは、60歳以降にがんになる人が多いからなのです。

これらのことから、とにかくストレスを溜めることなく日々の仕事をきちんと仕上げ、稼ぐのが最優先、そのためには多少の不摂生も仕方がない、と思っているのです。ストレスほど心身ともに悪いものはない、と思い込んでいるのです。私のように思っている人も、少なくないでしょう。

ただ、このような生活をしていると、年を取るほど、がんになる確率が高まるのは間違いありません。歓迎しないXデーは、思わぬ速さでやって来るかもしれません。運が悪ければ、だれもががんになる時代なのですから。

4年前の4月、妻は41歳のときに右乳房のしこりと痣が気になって病院に行き、「乳がんの疑いが強い」ということで病理組織検査(病変部の組織の一部を採取し、専門の医師や検査技師などが顕微鏡で詳しく調べる検査)をすることになりました。

前回の乳がん検診から1年半経ってからのことです。区が実施する乳がん検診で「再検査」という結果が出て、再検査を受けた近所の病院の医者から「水が溜まっているんでしょう。次回の乳がん検診は3年後でかまいません」といわれていたのに、です。

娘はまだ6歳。治療費はどのくらいかかるのだろうか。しっかりと妻をサポートすることができるのだろうか。いろんな心配ごとが脳裏をよぎりましたが、たとえ妻が乳がんだったとしても、命までは取られないだろうと思いました。

というのも、私の母が40代後半で胃がんになったのですが完治し、その後は再発することなく、70を過ぎたいまでも生きているからかもしれません。それよりも落ち込む妻に、なんて声をかければいいのか、わからなかった罪悪感のほうが大きく、日頃から妻への思いやりが欠けている証拠だと反省していました。それでも、まだ心のどこかで誤診ではないか、と思っていたのです。

これは「対岸の火事」に違いない。なんとなくそう思ってしまう自分がいました。

妻に対する思いやりのない夫は、1週間後、現実を突きつけられました。そして、その瞬間から、妻と娘とともに、厳しい現実と向き合う日々が始まったのです。

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