抗がん剤治療で髪の毛は抜け、爪はボロボロ

わかっていたこととはいうものの、抗がん剤治療を受けてから半月ほど経った頃、妻の髪の毛がハラハラと抜けだしました。そして、ある日シャンプーをしていると、抜けた髪の毛と抜けていない髪の毛が絡まり、まるで頭にたわしをつけたようになったのです。その数日後には大半の髪の毛が抜け落ちてしまったため、妻は出先ではウィッグ、自宅ではやわらかい素材でできたケア帽子を被っていました。

抗がん剤は、細胞分裂が激しいがんをやっつけてくれますが、同時に髪の毛や爪、粘膜などの細胞分裂が活発かつ正常な細胞も攻撃します。そのため妻は、2時間ほどの抗がん剤治療を受けるとき、吐き気と闘いながら副作用を少しでも軽減させようと、口内炎と味覚障害の防止になる氷で口のなかを、身体の末端に抗がん剤が溜まらないようにするために手足をアイスグローブで冷やしていました。

治療の回数を重ねていくとともに、妻はだるさを感じることも増え、皮膚の感覚が麻痺して味覚も鈍り、お風呂はぬるま湯でないと入れなくなりました。このほか、咳や頭痛、顔や足のむくみ、便秘、口のなかが渇いて傷つきやすい、テレビを見ると眩しいなど、いろんな副作用に襲われたのです。

これでも妻の場合、抗がん剤による副作用は軽いほうでした。

副作用ではありませんが、フェックという赤い点滴も受けていたため、治療を受けた日は赤い尿が出るのにも驚いていました。

ウィッグを選ぶのも大変でした。最初、黒髪のものを使っていたのですが、真っ黒でツヤツヤの髪質、地肌が見えないほどのボリュームがあったため不自然だったのです。また、まだ5月下旬というのにウィッグのなかがかなり暑くなり、締めつけもきつかったため、長時間つけるのには適しませんでした。

闘病に専念するため、妻は6月下旬に会社を辞めたのですが、このようなウィッグを被って7月、8月と働いていたら、通勤中に暑くて倒れていたのではないか、と思われるほどでした。そのため、いくつかウィッグを買い替えていたくらいです。

これは医療用ウィッグが10万円以上もするため手が出ず、1万円以下のファッションウィッグから選んでいたのが原因だと思います。私に甲斐性がないばかりに……と情けなくなりました。

また、抗がん剤治療を受けると日焼けしやすくなるため、妻は日焼け対策にも細心の注意を払わなければなりませんでした。外出時は日焼け止め化粧品やクリームを塗るのはもちろん、日傘を差し、UVカットの帽子を被り、サングラスを掛け、肘上まで隠れる長手袋をしていたのです。さらに抗がん剤の副作用により感染しやすくなっているため、マスクもしていました。夏にこのような恰好をすると、暑くてたまらないのはもちろん、怪しい人に間違えられても仕方がありません。そのため、妻はあまり外出しなくなりました。

このほか、抗がん剤治療の副作用で爪全体がデコボコ、爪の付け根は黒くなっていたため、濃い色のマニキュアを重ね塗りしていました。

この頃、持病の変形性頸椎症も悪化した妻は、首が痛くてまともに横になれず、敷布団の上に掛布団やクッションを重ねて背もたれをつくって寝ていました。それでも4時間くらいしか眠れない日々が続いたのです。

このように、抗がん剤治療が始まってから、妻の身体に想定外の不調も出てきて大変でした。また、思っていた以上にお金が出ていき、妻を心配させてしまいました。