どの世界にも一流と呼ばれる人がいる。そして、彼らにはいくつかの共通点がある。そのひとつが、複数の「眼」を使い分けることによる「視野の広さ」だ。

たとえば、一流のサッカー選手は自分でボールをコントロールしながら、相手と味方の動きを確認しつつパスを出す。一流のレストランのシェフは、料理の味をチェックしながら、提供するタイミングを見極めるためにお客さんの表情や動作に気を配っている。

こうした一流の人に共通する複数の「眼」や「視野の広さ」は、言い換えれば「同時並行で処理する能力の高さ」といえる。私はその能力を「複眼力」と呼んでいる。そして、この複眼力は算数・数学によって鍛えることが可能なのだ。算数・数学における何気ない作業の中にも、こうした能力を必要とする場面が数多くあり、そのつど得る気づきで鍛えられる。

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ちょっとした計算で頭のトレーニング

たとえば、図の【1】を「頭の体操」と思って、暗算で解いてみてほしい。慣れないと、ちょっと難しいかもしれない。しかし、解き方を見れば、ああナルホドと納得できたのではないか。

では、次に【2】に挑戦してみてほしい。3ケタなので難解に感じるかもしれないが、要領は【1】と同じだ。ヒントは「分解する」こと。この場合、「12」を「10+2」にする。そうすると「241×10+241×2」となる。つまり「2410+482=2892」となるわけだ。ここでは「2410を出して」「482を出して」「そして足す」という3つの作業を連続して行う。

「いくつかの作業を同時並行で行う」というと難しく感じるかもしれないが、たとえば料理をするとき、「お湯を沸かしている間に大根を切る」といったことを普通にやっているはずだ。なかには、「お湯を沸かし終えてから大根を切る」ようなやり方をしている人もいるだろうが、そういう人は仕事もおそらく同じで、並行して2つの業務をこなせないと思う。情報が2つ、3つと出てくると、その優先順位がわからなくなるからだ。

結局、「いくつかの作業を同時並行で行う」というのは、「段取り」と言い換えてもいいかもしれない。算数・数学と仕事に通じるのは、工夫して楽をしようということ、効率よくやろうということなのだ。計算ひとつとってもやみくもに力ずくでやる人と、ちょっと工夫する人では違う。仕事も同じで、多くの作業を一定時間内にこなすには、2つ、3つのことを並行してやれる力が求められる。

「複眼力」を身につけるうえで大事な点は、常に「意識」することだ。料理でも仕事でも目の前の作業と、その周りの風景まで見るように少し意識的にやるだけで、感覚が養われ、「複眼力」が身につく。私が数学を教えている中学生でも、そこを意識しているかどうかで成績が違う。その差は大人になればなるほど大きくなるはずだ。

いまからでも遅くはない。やれば確実にやっていない人よりアドバンテージがつく。「複眼力」が習慣化したときには、仕事の処理能力は格段にアップしている。

(構成=田之上 信 写真=PIXTA 参考文献=秋田洋和著『仕事の9割は数学思考でうまくいく』)
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