入塾2日目でマグロを握らす理由

喜代村社長 木村 清氏

一人でも多くの人においしいおすしを食べていただきたいという思いで「すしざんまい」を2001年に築地にオープンし、おかげさまで全国に53店舗を展開している。当社の成長を支えているのはお客様の評価はもちろんのこと、従業員の働きが大きい。私自身も従業員に喜んでもらい、幸せな人生を送ってもらうことが何よりも大事だと思っている。

そのためには働くことの楽しみ、働くことの喜びを知ることだ。一人前のすし職人になるには10年かかると言われる。1年目から2年目は魚の買い出しや出前をやり、3年目に魚のうろこを引き、4~5年目でしゃり切りを習い、7~8年目でカウンターに立ち、10年目で一人前になる。しかしこれではあまりにも不合理だし、働く喜びなんか感じられないと思った。

そこで、すし職人の喜びはカウンターに立ちお客様に感謝されることだと考え、短期間で職人を育成する「喜代村塾」を立ち上げた。入社1日目に基礎教育と心構えを教え、2日目には見よう見まねでもいいので、マグロとイカを握らせることにした。

当社の「喜代村塾」ではすし職人の基礎を約3カ月間で学べる研修を実施している。修了後は3カ月ごとに能力をチェックし、2年で一人前としてカウンターに立てるように教育している。

「喜代村塾」に対して、同業者からすし職人を短期間で養成することに批判があった。しかし、全盛期は全国に5万店舗あったすし屋は、「すしざんまい」のオープン当時には1万5000店舗を切る事態に陥っていた。その原因は後継者不足にあった。すし屋に入っても耐えられなくて5、6年で辞めてしまい、10年たったら一人も残らないという話も多い。10年もかけないと一人前の職人が育成できないということが不合理なのは、明らかだった。

すし業界にあった徒弟制度的な階級意識を排除し、誰とも区別なく接する「人間は誰もが平等」という考え方を貫くことにした。入ったばかりのパート従業員が何をしてよいのかわからずに突っ立っている場合がある。なぜ仕事をしないのかと聞くと、「私は今日入ったばかりでよくわかりません」と言う。私が「君は人間ですか」と聞くと「はい、人間です」と答える。「人間なら私は皆平等に扱う。額に汗して、いらっしゃいませ! 何か足りないものありますか? とお客様に声をかけ、足早に動き回ること。悠長な言葉はいらない。一生懸命さが伝われば、お客様も嬉しいはずです」と言っている。