2015年1月27日(火)

なぜ重大事件を引き起こす「うっかりミス」はなくならないのか

サイバーリテラシー・プリンシプル(16)コンピュータが人間の弱点につけ込み思わぬ事態を引き起こす

PRESIDENT Online スペシャル

著者
矢野 直明 やの・なおあき
サイバーリテラシー研究所代表

朝日新聞社で1988年にパソコン使いこなしガイド誌『ASAHIパソコン』、95年にインターネット情報誌『DOORS』を創刊、初代編集長をつとめる。2002年にサイバーリテラシー研究所を開設し、「サイバーリテラシー」という考えのもとに、現代IT社会における人間の生き方を模索してきた。この間、慶応義塾大学、明治大学、情報セキュリティ大学院大学、サイバー大学などで教壇に立つ。主著:『マス・メディアの時代はどのように終わるか』(洋泉社)、『インターネット術語集』(岩波新書)、『インターネット術語集II』(同)、『サイバーリテラシー概論』(知泉書館)、『総メディア社会とジャーナリズム』(同、2009年度大川出版賞受賞)、『情報文化論ノート』(同)、『IT社会事件簿』(ディスカヴァー21)。

執筆記事一覧

サイバーリテラシー研究所(代表 矢野直明)=文
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振り込め詐欺の巧妙な手口

コンピュータによる決断(指定)の引き金の軽さ、言ってみれば、手ごたえのなさが私たちの弱点につけ込み、思いもよらぬ大事を引き起こす。

個人宛メールをMLに投稿して赤っ恥をかいたり、書きかけのメールの「署名」ボタンと「送信」ボタンの操作を誤り下書きのままで送ってしまったり、アプリケーションソフトのおせっかいな自動化が災いして、文書を既存ファイルに上書きして貴重なデータを消してしまったり、などなどパソコンやスマートフォンを使っていて、うっかりミスに泣かされた経験のない人はほとんどいないだろう。

振り込め詐欺には、「税金の還付をするから」と老人を銀行のATM(現金自動預け払い機)に誘い出し、ケータイで「還付」手続きを受ける操作を指示していると見せかけて、実際には「振込」操作をさせて大金をせしめるといった手の込んだものがあるが、ATM(コンピュータ・システム)に対する不慣れを犯人につけ込まれたケースである。

サイバーリテラシー・プリンシプル(16)<コンピュータが人間の弱点につけ込み思わぬ事態を引き起こす>の典型的な事例が、2005年の「みずほ証券株誤発注事件」である。東京証券取引所の新興企業向け株式市場であるマザーズに人材派遣会社、ジェイコム株が新規上場された12月8日、顧客から「ジェイコム株を61万円で1株売り」の注文を受けたみずほ証券担当者がうっかり「1円で61万株売り」と金額と株数を逆に入力したばかりに、わずか十数分の間にみずほ証券は約400億円の損失を蒙った。

詳しい経過は『IT社会事件簿』を見ていただくとして、このような事態は証券取引所が電子化される以前、すなわち仲買人が一堂に会して手や口で、要は肉体を使って取り引きしていた場合には起こらなかった。金額と株数を間違えること自体、ふつうには起こらないだろうが、たとえその場合でも、誤りは本人にも周囲にもすぐわかり、「ごめん、ごめん」と赤面しつつ訂正してそれでおしまいになる話である。

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