ところでなぜ、ヒラメの産地偽装が問題なのか。食中毒の原因になるヒラメに寄生するクドアと呼ばれる粘液胞子虫(クドア・セプテンプンクタータ)が、養殖ヒラメに多く寄生するからだ。それも流通調査の結果、輸入の養殖ヒラメが原因となる事例が多くなっている。ヒラメの消費量は約1万2000トン(12年)で、そのうち漁獲によるヒラメは6057トン。国内養殖ヒラメは3125トン、輸入ヒラメは2953トンで、そのほとんどが養殖の韓国産。実に国内で流通するヒラメの4分の1が韓国の養殖モノになる。
それではクドアとはどういうものか。
「以前からクドアは魚の寄生虫として知られていましたが、人体に害を生じることはありませんでした。毒性のある新種がヒラメの養殖場を中心に広まり、食中毒の原因となったと考えられています。国産の養殖ヒラメでは対策が進み、ほとんど出なくなっています」と、国立感染症研究所寄生動物部主任研究官の八木田健司氏は説明する。
厚労省は11年6月にクドアを食中毒の原因物質と認定している。その年の10月、輸入ヒラメの検疫内容を強化したが、「出荷する際にクドア検査を義務づけるよう韓国と交渉していますが、まだ実現にいたっていません」(厚労省食品安全部監視安全課)。日本の輸入業者が韓国の輸出業者に、クドアの衛生証明書を添付してもらうケースも増えたが、全品検査ではなく、あくまでもモニタリング検査だ。実際に食中毒は全国で起きている。クドア食中毒は生食した数時間後に発症し、激しい嘔吐と下痢の症状が出る。しかし症状は、「一過性で、数時間程度で改善します。食中毒を防ぐには、75度で5分以上加熱するか、零下15~20度以下で4時間以上冷凍するといい。ただ、ヒラメは冷凍すると身がスポンジのようになり、刺し身で食べても美味しくありません」(国立感染症研究所寄生動物部・野崎智義部長)。
クドアは100分の2ミリほどの大きさで、肉眼で見つけるのは困難。調理するときに発見することはできない。そのうえ卸売市場で産地偽装がまかり通るとなると、消費者は食の安全をどう守ればいいのか不安である。