川島教授が研究を重ねてきた「朝食と脳の働き」において、新たな事実がわかってきました。その結果が物語るのは、子供の将来に責任を負う親たちへの警告なのです。

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調査3:お米とパンで脳の動きに違いがある?

なぜ、おかずが大事なのでしょう。ブドウ糖をエネルギー源として使うには、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなど、各種の栄養素も必要であることは、栄養学で知られていました。ただ、それらを常に同時にとらなければならないという知見がこれまでなかった。また、勉強を続けると、脳の神経細胞から神経線維やシナプスが伸びて神経細胞同士がつながります。その伝達路が太くなって信号がより速く流れ、以前は解くのに時間がかかった問題も速く解けるようになる。神経線維やシナプスをつくるためにも、すべての栄養素が必要になるのでしょう。

朝食に関して、もう1つ予想外だったのは、主食に関してです。米飯のほうがパンよりも脳の発達によい。この調査結果は、子供時代からパン派だった私にとっては個人的にも驚きでした。これも、幼稚園児の年齢の子供から大学生までを対象に知能検査を行ったとき、偶然発見したものでした。朝食に米飯を食べている人たちの知能指数の平均点は104点で、パンを食べている人たちの平均点100点を上回っていました。

そこで、MRI(磁気共鳴画像診断装置)でそれぞれの脳の断面写真を撮り、内部を比べてみました。脳は表面の大脳皮質と真ん中あたりの基底核を合わせた「灰白質(かいはくしつ)」という部分に神経細胞がつまっています。この灰白質の体積が脳全体に占める割合は、米飯が主食の人のほうが、パンが主食の人よりも高かった。つまり、灰白質がより大きく発達していたのです(調査3)。基底核でも特に「やる気」を起こす部分の差が大きいのが特徴的でした。

これらのことから、朝食で米飯が主食の子供の脳のほうが神経細胞から神経線維やシナプスが多く伸びていて、脳がよく働いていること、それが「やる気」にもかかわっていることが考えられました。しかも、小学生までよりも、中学生以上のほうが灰白質の体積の割合の差が広がっていた。これは、毎日の食事の積み重ねが大きいことを示しています。

なぜ、米飯のほうがパンより脳によいのか。考えられるのは、炭水化物がブドウ糖に変化して血中に入り、血糖値が上昇する度合いを示す「グリセミック指数(GI値)」の違いです。米飯のGI値が70であるのに対し、小麦の中心部分まで精白した粉で作る白いパンは97と高い。体が丈夫でたくましく育つにはGI値が低い食べ物のほうがよいとされており、同じことが脳についてもあてはまるのではないか。私たちはそう考えています。パン食中心の欧米人の知能指数はどうなのかと疑問に思われるかもしれませんが、もっとも、小麦を丸ごとつぶした全粒粉で作ったパンのGI値は35とぐっと下がります。欧米のパンは概してGI値が低いようです。