脳にとって大切な睡眠についても触れておきましょう。人は睡眠の間、脳が眠る深い「ノンレム睡眠」と、体は眠っても脳は起きている浅い「レム睡眠」を繰り返します。入眠直後のノンレム睡眠の間は成長ホルモンが分泌されます。一方、レム睡眠の間には、昼間勉強し経験したことが整理され、記憶として脳に書き込まれます。文科省が全国で行った学力検査の成績優秀者の睡眠時間を調べると、小学校高学年では7.5~8.5時間、中学生では7~8時間でした。それより短いと成績が落ちるのは、レム睡眠の回数が減ってしまうことが大きな要因です。

このように、睡眠を十分とり、お米のごはんを主食に主菜、副菜が揃った「きちっとした朝食」を家族一緒にとる生活習慣を身につけた子供は、脳がよく働き、脳がよく育つ。わが家も息子が4人いますが、早寝早起きと朝食の習慣は厳しくしつけました。小学生時代は夜9時、中学生時代も10時には就寝させたものです。朝食も、子供たちは米食で育てました。

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川島教授の朝ごはん調査、ほかにもあります。

ここで特に着目してほしいのは、こうした生活習慣が子供の将来に及ぼす影響です。われわれが全国の大学生とアラフォー世代のビジネスパーソンを対象に行ったアンケート調査が、それを如実に示しています。朝食の習慣を子供のころから身につけていた大学生は、約3割が偏差値65以上の大学に通い、半数以上が第1志望で、7割以上が現役で合格していた。これに対し、朝食習慣がないと偏差値65以上の大学合格率は2割を切り、第1志望や現役での合格率が低下していました。そして、年収1000万円以上の富裕層ビジネスパーソンも、第1希望の道に進んだ「勝ち組」意識の高いビジネスパーソンも、8割以上が朝食の習慣を身につけていた。生活習慣、特に朝食の習慣が大学合格への第一歩となり「人生の質」まで左右していることがはっきりしたのです。

勉強に対する「努力」は結果が目に見え、努力すれば報われるという関係がイメージしやすいため、子供たちも意識して努力し、親たちもそれを求めます。一方、朝食や睡眠のような生活習慣は、毎日の「習慣」であり、効果を意識することがほとんどないため、それが大きな影響を及ぼすことに、子供はもちろん、親も気づかない。親の気づきの欠如により、子供たちの努力が報われないことになれば、これほど悲しい現実はありません。

繰り返し言います。子供の生活習慣をつくるのは親以外にいません。朝食の習慣は親が知識さえ持てば変わりうるし、変えることによる効果も大きい。何でも手軽な方向に流れていないか。意識しないのが一番こわい。懸命に生きる子供と向き合う親は、責任の重さをもう一度胸に刻んでほしいと私は心から願います。

川島隆太
東北大学加齢医学研究所教授。1959年千葉県生まれ。東北大学医学部卒業。同大学院医学系研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学講師などを経て現職。研究テーマは、脳機能イメージング、脳機能開発。近著に『元気な脳が君たちの未来をひらく』(くもん出版)。
(勝見 明=構成 市来朋久=撮影)
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