テレビがこれまで莫大なCM収入を得られていたのは、テレビの向こうに何百万人もの視聴者がいて、そこから得られる宣伝効果を企業が買っていたからである。しかし、売り上げの低下で制作費がカットされ、番組のクオリティが下がれば、視聴率の低下は免れない。その先にあるのは、広告主のテレビ離れである。

確かにBSやCS放送による多チャンネル化で視聴者の選択肢が広がったという要因もある。しかし、番組のクオリティ低下には、視聴率低下の根本的な要因があると思わざるをえない。

ただし、まだ猶予が残されている。それというのもテレビ局は稀にみる「資産家」だからだ。08年度の自己資本比率は、日本テレビの78.5%を筆頭に、テレビ朝日77.2%、フジテレビ65.7%、TBS59.5%で、あのテレビ東京ですら64.8%もある。

サラリーマンも年収ダウンは生活苦に直結するが、預貯金や不動産などの資産を十分に有していれば多少収入が減っても当面の生活は維持できる。企業もこれと同じで、多少の不況がきても資産が多ければ、すぐに自らの存続が危ぶまれることはない。財務分析の観点からも、数年で危うくなることはないだろう。

もっとも、ライバルの台頭は無視できない。先述のようにインターネット広告費は06年以降、毎年20%以上の伸びを示しており、総広告費7兆円の規模が広がらなければ、新聞、雑誌、ラジオ、テレビの広告収入は、13年までに4000億円奪われる可能性がある。財務体質が強い今のうちに手を打つべきだ。

そのCM収入の減少を食い止めるには、高い宣伝効果を誇れるよう、視聴率を上げる必要がある。番組の質が下がれば視聴率は低下し、広告主である企業のテレビ離れは加速する。王道はクオリティのアップであり、そのためには制作コストを増やして制作会社のモチベーションアップを図ることが必要不可欠だ。

これを実行するには、TVマンの高給という“聖域”にメスを入れることも考えるべきだろう。制作会社の従業員を社員として登用し、自社で番組を制作する、制作会社を子会社化するなど、制作会社との格差の是正が望まれる。

クオリティが上がれば視聴者はテレビの前に戻り、CM収入の減少を小幅に食い止められるはずだ。そうしていくなかでテレビマンの高給が私たち視聴者の頭の中にちらつかなくなれば、今よりテレビが楽しめるかもしれない。懐かしのチャンネル争いの悦びよ、再び。

(構成=高橋晴美)