「世紀の大発見」発表から一転、次々に明らかになるSTAP細胞論文の不正疑惑。なぜたった1カ月余りで、理化学研究所や早稲田大学は調査に乗り出す異例の事態に追い込まれたのか。
実はここにソーシャルメディアという存在が大きく関与している。特徴的なのは、匿名の告発サイトに疑惑が浮上するたびに、多くの研究者が実名でツイッターやフェイスブックなどSNSに投稿し、検証の議論が加速度的に進んだ点だ。
当初、2ちゃんねる生物板スレッドやブログ「世界変動展望」(@lemonstoism氏)、「論文捏造&研究不正」(@JuuichiJigen氏)などの匿名サイトで、論文画像の不正疑惑が取り上げられた。まだこの時点で関係者は取り違えミスと回答。しかし告発が呼び水になって、多くの研究者がSNS上で議論と検証を開始、疑惑が一気に広がった。
マスメディアも慎重に様子を見ていたが、共同著者の若山照彦教授(山梨大)がSTAP細胞の多能性を示す重要な図の多くが小保方氏の関係のない博士論文からの流用だった点をネットで確認、論文取り下げを表明したことから、マスメディアも一気に疑惑報道に転じた。
見落としてはならないのは、研究者が従来使っていたメーリングリストやデータベースなどクローズなネットワーク上でなく、問題提起につながる発言をオープンなSNS上で展開したことだ。門外漢である一般の素人にも「問題の本質は何か」を理解できる手立てとなった。
「なぜこんな嘘つきが博士になれ、国民的スターになれたのか」(東浩紀・元早大教授)や「アイデア&データの盗用、実験しなくても論文になるのは、早稲田バイオサイエンスの『文化』。気の毒なことに彼女はその中で育った」(尾崎美和子・元早大教授)などといった元身内の発言から、大学の抱える根深い問題をも知ることとなった。
「予想通り早稲田を震源とした博士論文のネット査読が広まりつつある。疑わしい研究室の出身者、そして知名度の高い研究者からターゲットになる」(前出・東氏)という指摘は、組織の壁を越えた実名の議論の場をリアルタイムで提供するSNSの可能性を感じさせる。