安倍政権がTPP(環太平洋経済連携協定)交渉に参加して1年。ここにきて交渉は暗礁に乗り上げている。2月下旬の閣僚会合で日米両政府は関税分野での大筋合意が得られず、3月中旬の実務者協議でも「低関税」で譲歩した日本側に対して米側が「関税は全廃せよ」と譲らないからである。

打開策として日本側は、EPA(日豪経済連携協定)の合意に向けて動き出した。4月上旬にはアボット豪首相が来日。合意すればTPPに先行して日豪EPA協定が発効する。豪州牛は米国牛より低関税なので、日本における米国牛の市場が奪われることになる。弱体化するオバマ政権に対する日本側の揺さぶりだ。

「TPP交渉は、農林水産品の重要5品目にかけられた関税が焦点ですが、そういう米国も自動車で高い関税を崩さないので身勝手です。ただ、政府としては4月下旬のオバマ米大統領訪日までに何とか出口を見出したい。しかし、今のところ年内妥結さえ危ぶまれています」(全国紙編集委員)

食の安全が保証されなければ国民の健康は損なわれ、投資の自由化や国有企業の改革で国際金融資本の力を制御できなければ、日本国民の富は根こそぎ持ち去られる。これらの不安を放置したまま、安倍政権は関税分野で身動きできなくなることを承知で規制全廃を目的とした国際協定TPPの交渉に参加した。国民と米国に二枚舌を使い続ければ矛盾が高じて、日米関係はさらに悪化する。安倍首相はいったいどうするつもりか。

1980年代の日米経済摩擦で交渉の最前線に立った旧通産官僚OB(現・財団法人理事)がこう解説する。

「オバマ大統領は『所得倍増計画』を実現できる手がかりを掴まねば今秋の中間選挙を乗り切れず、仮にポスト・オバマが登場すれば、新政権は日本の規制撤廃をさらに強く求めてきます。日本から収穫さえ持ち帰れば米国議会がTPA(貿易促進権限)を与えてくれますからオバマ氏も実は必死。かつてのジャパン・バッシングの再来もあるかも。あの手この手で日本政府は追い詰められる。そもそも、WTO(世界貿易機関)の多角的貿易交渉が暗礁に乗り上げたのも『全交渉分野での一括合意』という高邁な目標に無理があったから。TPPでまた同じ轍を踏むのは愚の骨頂でしょう」