米オバマ政権が、日本の保持するプルトニウム300キロの返還を要求したという(1月26日付共同通信)。これは昨年来、靖国参拝強行をはじめとした急進的な采配で諸外国の警戒を呼び起こした安倍政権に、しびれを切らした米国が突きつけた警告と受け取っていい。安倍晋三首相は、恐らく肝を冷やしたはずだ。

なぜか。キーワードは、プルトニウム、核兵器、使用済み核燃料、核燃サイクル、日米原子力協定、再稼働の6つだ。地球上に存在しなかった人工生成物質プルトニウムには猛烈な毒性がある。しかも捨て場はない。返還を求められている300キロのプルトニウムは冷戦時代に研究用として日本に提供されたものだが、核テロ拡散を恐れる米国がその扱いに神経を尖らせるのは、これらが実際に高純度の兵器級であれば核兵器開発に転用できるからだ(「戦後の極秘文書が語る『原発推進のウラ事情』」http://president.jp/articles/-/5210 参照)。

核兵器から生まれた原発がプルトニウムを生み、それを精錬して核兵器は拡大再生産される。原発の使用済み核燃料の再処理では、ウランとプルトニウムを取り出す。これを加工してMOX燃料をつくるが、高速炉に実現の見込みがなくなったため、現在、MOX燃料の用途はプルサーマル発電だけ。核兵器の材料でもあるプルトニウムを得るためにはこうした再処理が必要だが、日米原子力協定を根拠に、非核保有国でこれを認められているのは日本だけである。

戦後、米国は日本を「反共の防波堤」にするため、当時のアイゼンハワー米大統領が「原子力の平和利用としての原発奨励」で日本の反核運動を押さえ込んだ。原発利権と核武装を念頭に原発導入の旗振り役を務めた日本側協力者の代表格は、正力松太郎元読売新聞社主と中曽根康弘元首相。1955年に「研究協定」の形で締結された日米原子力協定は、68年に包括協定となり、88年の中曽根・レーガン両政権時、前述のように非核保有国の中で日本だけに再処理とプルトニウム供与を認める形で改定された。

4年後の2018年に満期を迎える同協定には「余剰プルトニウムを保有せず」との縛りがある。日本側は、高速炉の実験炉「常陽」に着工する2年前、包括協定を締結した68年の時点で高速炉運転で蓄積されるプルトニウムが容易に核兵器へと転用できることに気づき、政府官僚を中心に秘策を講じる。「核の平和利用としての原発」提唱を逆手にとり、「建前として発電を目的とするが、いつでも核兵器に転用できる経済力・技術力の蓄積・発展とその秘匿」という両義的な戦略で擬装した(前掲記事参照)。

その結果、日本は世界で最も多く兵器級プルトニウムを溜め込むことになる。現在、国外での中途処理分を含めれば、実に総量50トン弱(米国安全保障問題の専門通信社NSNSは「70トン」と報告)を保有する“核大国”。「兵器級4~8キロで原爆1発分」というIAEAデータで単純換算すれば、50トンと少なく見積もり、しかも工程ロスまで勘案しても核爆弾5500発分だ。