逆に、会社側から社員にサラリーマン法人化を呼びかけた例もある。ネットショップの開業を支援する企業であるEストアーの石村賢一社長は、2001年ごろから社員にサラリーマン法人化のメリットを訴え続けてきた。ところが説明すればするほど社員の反応は「解雇を容易にすることが目的ではないか」とネガティブな方向に向かってしまったという。

「それよりも、財形貯蓄や福利厚生などの制度を充実させてほしいと言われました」と石村社長は嘆く。

「とにかく正社員が安定していると勘違いしているんですよ。当社は160人の社員のうち約半数が正社員ですが、契約社員も派遣社員も扱いは同じです。有能な人材なら雇用形態にかかわらず働いてもらうし報酬も上げる。そうでなければ正社員であっても辞めてもらう方針をはっきり伝えてあるのですが……」

正社員がサラリーマン法人化した例はまだないが、「もともと個人事業主だった人がフルタイムで働いているために、結果としてサラリーマン法人になった例はあります。法律上は会社間契約ですが、私はその人を社員として査定しているし、本人もそれが当たり前と思っているようです。もともと自立心が強い人はメリットがわかっているんですね」(石村社長)。

石村社長がサラリーマン法人化にこだわるのは、会社に寄りかかって生きていくのではなく、自立した社員に育ってほしいからだ。その第一歩が、自分が払う税金について知ることだと考えている。そこで社員が昇給する機会をとらえて税金の話をする。昇給しても税負担が昇給分以上に増えて実質的に減収になるケースがあるからだ。また、社内結婚した社員にはこんな提案をした。

「その社員は奥さんが家で子育て中。でも彼が持ち帰った仕事を手伝っているというのです。『だったらおまえの給料を、おまえと奥さんが分割して受け取って、奥さんが個人事業主として確定申告すれば、世帯所得が80万円増えるよ』とアドバイスしました。その社員は『いいんですか?』なんて不思議そうな顔をしていたけれど、会社の負担は変わらないのだから何の問題もないのに」

Eストアーでは業務に支障のない限り社員の副業を認めている。最近の製造業を中心とした副業解禁の動きと違い、給料の減少分を副業で補ってもらうという後ろ向きの選択ではなく、「ほかの社会を見ることで社員の経験が深まり、それが会社の仕事に好影響を与える」(石村社長)という理由からだ。

実際に、副業の年商が600万円という社員も存在する。同社の竹内唯通氏は、ネットショップ事業者を支援する部門に配属された05年から副業を始めた。デンマークの雑貨を自分で立ち上げたネットショップで販売している。

「お客様が何を望んでいるのかを肌で知るためにネットショップを立ち上げました。最初は10商品程度から始めて、引き合いが増えるにつれて少しずつ商品を増やしていきました。副業の時間は主に帰宅後と土日の休日ですね」