では、明乳をめぐるマーケットの状況はどうだろうか。明乳の主力商品(売上高約2800億円)の市乳(一般市場で販売される牛乳)に限って見ると、少子化と他の飲料の影響が如実に表れている。

総務省の国勢調査によれば、牛乳を最も飲む5~14歳人口の構成比は、80年で16.2%。これが07年には9.3%まで減少。農水省の牛乳乳製品統計によると、03年に447万8000キロリットルあった飲用牛乳生産量(生産量=消費量と考えていい)は減少を続け、08年には391万9000キロリットルまで下落した。

一方、茶系飲料、ミネラルウオーター、野菜飲料の市場は、軒並み右肩上がりの成長を続けている。全国清涼飲料工業会統計資料によれば、ミネラルウオーターの場合、00年と07年の比較で、実に215%の伸び率だ。明乳・市乳販売本部長の野中謙一が言う。

牛乳市場低迷でも「おいしい牛乳」は健闘
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牛乳市場低迷でも「おいしい牛乳」は健闘

「牛乳の消費量は減り続けていますが、やはり牛乳を大量に飲む若い世代が減少しているのが最大の原因。ペットボトルに消費を取られた面も否定できません」

さらに、牛乳は差別化がしにくい商品でもある。どれを買っても中身は同じというイメージが強いため、PBとの価格競争に巻き込まれやすく、利益率が極めて低い。08年度の乳製品事業(チーズ、ヨーグルト等を含む)の利益率は1.8%。乳業会社に生乳をおろす酪農家も儲からず、酪農家の疲弊も著しい。

酪農家救済の趣旨で、08年4月と09年3月、立て続けに2回、乳価の引き上げが行われたが、PBが幅を利かせる市乳マーケットでは乳価の引き上げ分を小売価格に転嫁することが難しく、極めて悪い循環に陥っているのが現状だ。

むろん、明乳はこうした市場の変化に手をこまねいていたわけではない。差別化が困難な牛乳の世界で、差別性のある商品を生み出すという離れ業をやってのけた。それが、「明治おいしい牛乳」だ。「おいしい牛乳」はオープン価格だが、小売店での売価はPBに比べて50~60円近くも高い。にもかかわらず、02年の全国発売以降着実に売り上げを伸ばし、07年には単一ブランドで約470億円を売り上げるまでに成長した。07年の日本全体の普通牛乳の市場は約5400億円だから、10分の1弱を「おいしい牛乳」が占めたことになる。値段の高いNBがこれだけのシェアを取るのは、驚異的と言っていいだろう。市乳販売部長の竹山五城が言う。