なぜ米名門企業から事業を買収できたか

日本電産社長 永守重信氏

経済のグローバル化が進んだことで、品質・価格をはじめ企業の実力がストレートに評価される時代がやってきた。要するにいいものは売れるが、悪いものは売れない。ビジネスの「王道」をゆく企業が栄えるようになったということだ。

かつては電機業界もいわゆる系列取引が常識だった。ところがグローバル化によって厳しいコスト感覚が問われるようになると、系列の壁、接待営業といった古い商習慣は消えてしまった。これからは電機に限らず、自動車など他の業界でも「脱・系列」の動きが加速するだろう。

われわれ日本電産はいうまでもなく、王道をゆく企業である。中立・公正なビジネスを展開し、モーターの世界で圧倒的なナンバーワンになることを目指している。現在の売上高は1兆円をうかがうところだが、2030年までには、モーター関連に特化したまま10兆円の高みに達するつもりだ。

その過程で重要なのが、積極的な企業買収や合併(M&A)だと考えている。これまで日本電産はM&Aによって31社をグループに加えてきたが、その大半は日本企業だ(取材当時)。今後は必然的に海外企業との縁組が増えるだろう。

日本発祥のグローバル企業。私は日本電産をこのように定義しているが、10兆円企業を目指す中で、ますます「グローバル」の比重が増していくのである。

たとえば10年には米エマソン・エレクトリックのモーター事業(現・日本電産モータ)を買収し、われわれの仲間に加わってもらった。電機の名門エマソンは、アメリカでは常に「働きたい会社」「尊敬できる会社」のランキング上位につけている会社である。その社風はまるで古きよき日本企業だ。

一般のアメリカ企業と違って簡単には雇用調整を行わず、従業員教育にも熱心である。そのため同社で働いている人たちは会社へのロイヤルティ(忠誠心)がたいへん高い。日本電産モータの経営陣も、ほとんどが勤続20年、30年という「エマソン一筋」の人たちである。